Ça va? PsychSci

このページでは,2016年度大学院輪読ゼミで実践しているサイエンスライティングの成果をまとめて公開しています.
D1の中村さんは個人的にも(ここで紹介したもの以外も含めた)まとめを作っています.

Chaiken 特集① ヒューリスティック処理とシステマティック処理

2017/03/01 19:51 に Saki Nakamura が投稿   [ 2017/03/01 19:52 に更新しました ]

Chaiken 特集の第1弾です。今回は,1980年にJournal of Personality and Social Psychologyに掲載された論文を紹介します。

説得におけるヒューリスティックとシステマティック 
この研究では,説得における受け手の態度変容プロセスのパターンとして,システマティック処理とヒューリスティック処理の異なる2つのプロセスを提案しています。システマティック処理は,メッセージ内容の詳細とメッセージベースの認知の役割が強調されたプロセスで,ヒューリスティック処理は,詳細な情報処理を強調せず,単純なルールや認知的ヒューリスティックが説得の重要な媒介要因となるプロセスです。ヒューリスティック処理では,過去の経験や観察によって得られた一般的なルール(スキーマやスクリプト)が使われるといいます。

どういうときに2つの処理が使われるのか?
ヒューリスティック処理は認知的努力が最小限しかいらないという点で経済的に有利になります。したがって,メッセージを処理する際に,経済性への関心が優位な時にはヒューリスティック処理を行うと考えられます。しかし,ヒューリスティック処理は判断の妥当性という意味で確実性に欠けています。たとえば,ヒューリスティック処理が行われる場合には,タイプ1エラー(ないものをあると判断してしまうエラー)とタイプ2エラー(あるものをないと判断してしまうエラー)を膨らます可能性があります。
一方で,メッセージの処理を行う際に受け手の関心が,経済性よりも確実性を重視する時には,システマティック処理がなされると考えられます。これまでの研究では,個人的に重要なトピックや自分の意見が自分自身に重大な影響をもたらす場合に確実性への関心が勝るといわれてます。

2つの処理の特徴
すでに述べた通り,システマティック処理では,受け手はメッセージの内容を第一に焦点にあてた処理です。だからと言って,情報源やそれ以外の内容に関係ない手がかりを一切使用しないのではなく,これらの手がかりは,メッセージの内容の二の次に,説得の論拠の妥当性の判断に使用されています。つまり,システマティック処理は,メッセージの特徴のほうが情報源の特徴よりも説得に大きな影響を与える処理ともいえます。
一方で,ヒューリスティック処理は,受け手はメッセージの内容を精緻に処理するのを避け,その代わりに情報源の特徴といった情報に依存します。つまり,ヒューリスティック処理が適用される時には,情報源の特徴がメッセージの特徴よりも大きな影響を持つといいます。

本研究の目的はシステマティック処理とヒューリスティック処理の有用性について体系的に検討し,情報源とメッセージの手がかりの影響について検討します。

実験1
実験1では,マサチューセッツ大学の大学生207名が実験に参加しました。この実験は,2つのセッションで構成され,2つ目のセッションでは,自分の態度を表明したのち集団で討議を行うと,参加者に教示しました(実際は1つ目のセッションしかなく,議論は行っていない)。参加者は好ましい/好ましくない説得者(学生組織と一緒に働く大学の男性事務員で,大学について肯定的なコメントをする人が好ましい人で,否定的なコメントをする人が好ましくない説得者というように操作された)から、6つ/2つの論拠が含まれた説得的メッセージを読みました。このとき,参加者は2つのトピック(「睡眠時間を8時間以下にすべきだ」「大学を2学期制から3学期制に変更すべきだ」)のうちいずれかを読み,自分が読むメッセージが2つ目のセッションで議論しなければならないトピック(関与度高条件)であったかそうでなかったか(関与度低条件)が操作されました。そのあと,説得者の主張について同意できるか否かを15件法でたずねました。そのあと,3分間説得的メッセージを読んでいる間の思考をリストアップさせました。これは2人のコーダーによって,メッセージ中心か説得者中心の思考かを分類し,またその思考がポジティブ・ネガティブ・ニュートラルのいずれかに分類されました。※さらに,実験1では説得後の態度の一貫性も測定しており,実験後10日後に電話で再度参加者の態度を5件法で測定しました。
説得について関与度が高い時には,システマティック処理が採用され,それに従って,説得者が好ましいか否かにかかわらず,論拠が6つあるほうへ態度を変容させると予測しました。一方で,関与度が低い時には論拠の数にかかわらず,好ましい説得者のほうへ態度を変容させると予測しました。

※ここでは認知反応については省略します。

その結果が,Figure 1です。関与度の高い条件では,論拠が6つの時のほうが2つの時よりも説得者の主張への同意の程度が大きかったものの,説得者の好ましさによっては同意の程度に差がありませんでした。一方で,関与度の低い条件では,好ましい説得者の時のほうがより同意していたが,論拠の数によって同意の程度に差がありませんでした。これらは予測を支持する結果でした。


実験2
実験2では,トロント大学の学生80名が参加しました。説得のトピックは参加者自身の大学で2学期制から3学期制に変更するというもので,1981年(高関与)から,あるいは1985年(低関与)から導入されるというように関与度を操作しました。そして,参加者は,好ましい説得者(同じ大学の事務員)で論拠が1つしかないメッセージ,あるいは,好ましくない説得者(他大学の事務員)で論拠が5つあるメッセージを読みました。そのあと,15件法で同意できるかどうかをたずねました。

その結果がTable 2です。関与度が低い条件では,好ましい説得者で論拠が1つの時のほうが,好ましくない説得者で論拠が5つの時よりも態度変容の得点が高いことが明らかになりました。一方で,関与度が高い条件では,好ましくない説得者で論拠が5つある時のほうが,好ましい説得者で論拠が1つしかない時よりも態度変容得点が高いものの,ここには有意な差はありませんでした。この結果は,予測を一部支持する結果となりました。


※態度変容得点は,各参加者の回答から,実験参加者とは別に設けた統制群(N=125)の平均値(M=10.33)を引いた値を用いています。

まとめ
一部支持されていない部分はありますが,システマティック処理は説得内容に関係のない手がかりの影響が小さく,一方でヒューリスティック処理は説得内容に関係のない手がかりの影響が大きいという特徴を裏付ける結果でした。
(中村早希)

【引用文献】

Dark Futureを想像できるほうが長生き?

2017/03/01 7:10 に Megumi Tabuchi が投稿   [ 2017/03/01 7:12 に更新しました ]

 悲観性が親子で類似する一方、楽観性が親子で類似しない、というお話(→コチラ)を報告しましたが、それはなぜなのでしょう?様々な背景があるとは思いますが、「悪い結果を予測する、悪い結果に敏感である」ことが生存にとって重要であるため、そちらが世代間で伝達される、という理由も一つあるのではないかと思います。「悪い結果を予測しておく」ことを怠ると最悪死んでしまいますが、「良い結果を予測しておく」ことを怠っても生存には直接的には関係ないからです。では、実際、悲観的なほうが長生きするのでしょうか??今日は、「5年後の自分の状態を悲観的に考えているほうが長生きする」という研究をご紹介します。


Lang, F. R., Weiss,D., Gerstorf, D., & Wagner, G. G. (2013)は,自分の将来を予測して期待や不安を抱く能力は人間に特殊な能力であり,人生を通して環境への適応や健康変化に対応するために必要な能力だとしています。そして、自分の将来や現在の状況について楽観的でポジティブであることがよかれとされている中で,Dark Futureを予想することが必ずしも悪ではないのでは?という観点から、「5年後の生活満足度と寿命」の関連を検討しています。German Socio-Economic Panel (SOEP; N=10,000, 年齢1896)というドイツの社会経済パネル調査のデータを用いて,対象者が予想する「5年後の自分の生活満足度」と10年後の身体能力低下や寿命との関連を調べました。使用した項目は,「5年後の生活満足度」(“How do you think you will feel in 5 years?”の1項目に対して10件法(全く満足していない~とても満足)で回答)で、この得点から「現在の生活満足度」得点を差し引いた得点を分析に用いています。ちなみに「5年後の生活満足度」得点は「将来を考えたとき、どの程度楽観的でいられますか?」という楽観主義尺度得点と中程度(.40前後)の関連性なので、この得点がそのまま楽観性というわけではないようです。
 分析の結果,全般的に,若者は5年後の自分の生活満足度は今よりもよくなっていると予想した一方で,高齢者は5年後の生活満足度は今よりも低くなっているだろうと予測していました。そして,5年後の自分の生活満足度を低く見積もっている人ほど,その後10年間の身体的衰弱の危険性や死亡確率が低いという結果でした(年齢・性別・教育・経済・主観的健康を統制してもこの関連性は残りました)

つまり,加齢に伴って自分の将来についての満足度評価は低下していくのですが,さりとてそれは別に悪いことではなく,逆にちゃんと見積もれるほうが,寿命が長い,という結果で,ポジティブになったほうがいいよ!楽観的なほうがいいよ!という研究が多い中で興味深い研究です。


Lang, F. R., Weiss, D., Gerstorf, D., & Wagner, G. G. (2013). Forecasting Life Satisfaction across Adulthood: Benefits of Seeing a DarkFuture? Psychology and Aging, 28(1), 249-261.

チョコレートは味わって食べよう

2017/02/15 18:25 に Saki Nakamura が投稿   [ 2017/02/15 18:26 に更新しました ]


多くの人が「チョコレートをたべると幸せな気分になる」と感じたことがあると思います。しかし,この効果を実験で検討した研究は少ししかありません。今回は,2017年にAppetiteに掲載された,Meier らの研究を紹介します。Meier らは,この効果を高める,あるいは低めるような媒介要因として「マインドフルネス」に注目し,実験を行いました。マインドフルネスとは,今この瞬間の経験に対する受容的で価値判断をすることない気づき (Goodman et al., 2015) と特徴づけられれるもので,近年,マインドフルネスと食べることについて,さまざまな関連が示されているとのことです。

実験では,参加者に4.5分間のマインドフルネスを誘導する(あるいはしない)音声に従って,チョコレートあるいはクラッカーを食べさせ,食べる前後に現在の気分についての質問(左端に「happy」,右端に「sad」と書かれたVASを使用して,今の気分がどの辺かを印をつけさせる)に回答させました。マインドフルネスを誘導する音声では,「その食べ物について考えて,見つめて,ゆっくりと口にする」というような内容が含まれており,一方でマインドフルネスを誘導しない音声は,「1つ食べてください。食べたら指示があるまで待っていてください。」というものでした。

その結果が,Fig. 1です。この図は,食べ物を食べる前後での気分の変化を表したものです。マインドフルネスを誘導する音声を聞きながらチョコレートを食べた条件は,他の3つの条件よりも,食べることによってポジティブな気分になっていることが明らかになりました。
 

この結果は,「チョコレートを食べると幸せな気分になる」ということを支持する結果です。ただし,単にチョコレートを食べればいいのではなく,マインドフルネスな状態で食べるということが重要とのことです。せかせかした状態ではなく,味わって食べるということに意味があるでしょうか。
(中村早希)

悲観性は親子で似るけど楽観性は親子で似ない?

2017/02/15 6:50 に Megumi Tabuchi が投稿   [ 2017/02/15 6:51 に更新しました ]

制御焦点傾向以外に,行動方略が親子で似る,あるいは似ないという議論がないか…と探していたところ,「楽観性」というヒントをいただいたのでちょっと調べてみました。本日は,楽観性の発達について論じているレビュー(の,特に親子相互作用のところ)をご紹介します
(書誌情報)
Gillham, J. & Reivich, K. (2004) Cultivating Optimism in Childhood and Adolescence. The Annals of the American Academy of Political and Social Science, 591, 146-163.

楽観主義(楽観性)とは,物事に対してポジティブな結果が起こることを期待,予想する傾向を指します。希望(hope)と同じような心理的影響を持つとされる (Snyder, 2000)ので,ほぼ同義として扱われている研究も多いです。こうした「未来に対するポジティブな期待」の根底には,「自分はよい結果を導き出せる,結果をポジティブな方向にコントロールできる」という,自信や信念があります。なので,自分自身の行動が問題解決において効果的であると期待する「セルフエフィカシー」(Bandura, 1997)とも強く関連しています。(繰り返しになりますが)「セルフエフィカシー」が高い人も,楽観性が高い人も,これから起こること,未来の事象に対して,「自分でだいたいはコントロールできるだろう,基本的に問題は解決できるだろう,目標は達成できるだろう」という信念があるのです。なので,「ポジティブな結果(=利得)への接近行動」という,促進的行動の前提にある思考といえるのかもしれません。

 対して,悲観主義(悲観性)とは,将来に対してネガティブな予想や不安を抱く傾向で,抑うつ症状や情緒不安定傾向と関連が深いとされています(Hammen, Adrian, & Hiroto, 1988)。病的な悲観主義の背景には,虐待などのネガティブな幼児期のイベントがあるとされています。

では,親子の相互作用の中で,どのように楽観性あるいは悲観主義が形成されていくのでしょうか。未来に対する希望や期待の志向性には,モデリング(模倣学習)が重要な役割の一つとされてきました。例えば養育者が自分自身の未来や人生に対してネガティブな予想ばかりしていると,子どもも悲観的になると考えられてきました。しかし,こうした親子の類似性は,楽観性と悲観性では一貫した結果が得られていません。先行研究によれば,親が悲観的な思考スタイルを持っていると子どもも悲観的になるという,悲観性の側面においては親子で類似するという結果が報告されているにもかかわらず,楽観主義では親子で類似しないとされているのです(e.g. Joiner & Wagner, 1995)。これは,楽観性が親のモデリングで形成されるという考え方とは矛盾する結果です。

では子どもの楽観性の発達に親のどういう側面が関連しているのかというと,「子どもの行動」に親がどう反応するのかが関わっていると考えられています。子どもは,自分が外界に対して働きかけた行動に対して親がどう反応するか,そのフィードバックで,行動方略や思考パターンを学習していきます(これは制御焦点も同じ)。先行研究によれば,親が自分自身の人生での出来事についてあれこれ楽観的な思考スタイルを持っていても子どもにその影響は無く,親が子どもの出来事について楽観的に反応していれば子どもはより楽観的になる(Garber & Flynn, 2001),とされています。また,子どもは何の苦労も困難もなくすーっと生きていくと楽観主義的になるわけではなく,むしろ「困難を上手く解決できた」という経験によって,「問題が自分で解決できたので,次(未来)もきっとうまくいくに違いない」というコントロール感が楽観主義を促進する(Snyder, 2000)とされています。このとき,試練が「頑張れば乗り越えられるぐらいの,ちょうどいいもの」であることや,子どもに「成功した!」と思わせる親の反応が大切です。なので,悲観的な人には認知行動療法が効果的,というお話になるようです。

つまりまとめると,

・悲観主義は,親が悲観的だと子どもも悲観的になる。親子で類似する。

・楽観主義は,親子で類似するとは限らない。親が「子どもの行動」に対してポジティブに反応すれば子どもは楽観的になる。「親子の類似性」よりも,子ども自身のコーピングスキルがより重要で,幼少期の成功経験の積み重ねが,未来に対するコントロール感=楽観性の発達につながる。

…ということになります。これは,制御焦点傾向の予防的な側面は親子で類似し,促進的な側面は類似しない,という結果と共通する部分があるかもしれません。

NEWスリーパー効果 ―信頼できる源泉からの論拠の弱い説得における遅延の効果―

2017/02/08 17:42 に Saki Nakamura が投稿   [ 2017/02/08 22:29 に更新しました ]


スリーパー効果は,信頼性の低いメッセージによる説得が,時間の経過によって,説得直後よりも,好ましく受け入れられている現象のことを言います。これは,時間が経つことによって,メッセージの論拠による説得の効果とメッセージの発信源による説得の効果が切り離されることによって,メッセージの論拠そのものの説得の効果がみられるためだと説明されます。今回,紹介するAlbarracínらの2017年の研究では,信頼性の高い源泉からの弱論拠のメッセージでも,時間が経過することによって,説得直後よりも説得の効果が大きくなることを発見しました。この背景には「注意の焦点」が大きく関わっているとのことです。

Albarracínら(2017)の研究では,参加者に架空の学内の政治団体の政策を読んでもらい,その直後と45分後に,どの程度その政党へ投票するつもりかを答えさせています。参加者は信頼できる人物(政治学や法学を専門し,卒業後も政治の道に進む大学生)による論拠の弱い政策が書かれたメッセージ(例「使われなかった経費を学生組織の宴会などで活用する」)か,信頼できない人物(パートタイム学生で,あまり大学に来ていない学生)による論拠の強い政策が書かれたメッセージ(例「学業専念ための金銭的サポートを提供するように大学機関と交渉する」)のいずれかを読み,その政党への投票意図を尋ねました。その後に,注意の操作として,政党に関する質問か政策の論拠に関する質問に加え,政党もしくは政策についてどのようなことが書かれていたかを参加者に思い出させました。そして,遅延の手続きとして,45分間フィラー課題を参加者に行わせた後,再度,政党への投票意図に関する質問を行いました。

その結果,信頼できない人物における論拠の強いメッセージを受けた時だけでなく,信頼できる人物による論拠の弱い政策が書かれたメッセージを読んだ場合においても,スリーパー効果が生じていることがわかりました。Table 1の態度変容量(遅延手続きの後から政策を読んだ直後の投票意図の得点の差)に注目すると,信頼できる人物による論拠の弱い政策が書かれたメッセージを読んだ場合において,源泉(政党)に焦点が絞られていた時のほうが論拠に絞られていた時よりも,正の方向に態度変容していることがわかります。一方で,信頼できない人物による論拠の強いメッセージを読んだ場合には,論拠に焦点が絞られたときのほうが正の方向に態度が変容していることがわかります。この傾向は,題材と遅延の間隔を変えた場合でも再現されました。

この研究をまとめると,説得を受け入れるかどうかを判断する際に,源泉か論拠のいずれに注意が向いているかによって,時間が経過したときの説得の効果が異なるということです。注意が源泉に向けられているのであれば,時間がたった時に源泉の属性の好ましさの影響のみが残り,反対に注意が論拠に向けられているのであれば,論拠の強さの影響のみが残るということです。説得者の見かけに影響されないようにするためには,論拠に注意を向けるということが必要かもしれません。
(中村早希)

高齢期の自己制御理論あれこれ

2017/02/08 7:01 に Megumi Tabuchi が投稿   [ 2017/02/08 7:07 に更新しました ]

 Higginsさんたちの制御焦点理論では,幼児期の親子の類似性について言及しているものの,その後の加齢変化や中高年期の親子の関連については著書に展望が書かれているのみで,実証的な検討はなされていません。では,高齢期の自己制御を扱った他の理論ではどのように考えられているのでしょうか?ここでは,SOC理論とLife-span theory of controlを紹介します。

(書誌情報)
Heckhausen, & Schulz (1998) Developmental Regulation in Adulthood: Selection and Compensation via Primary and Secondary Control. Heckhausen, Jutta (Ed); Dweck, Carol S. (Ed). (1998). Motivation and self-regulation across the life span , (pp. 50-77).

SOC理論とは, Baltes(1984)が提唱した,高齢期の自己制御方略に関する理論です。若年の頃と違って身体的・認知的に低下を経験する高齢期において,自らの目標を調整しつつ,今ある身体的・認知的資源を使って少しでも喪失の前の状態に近づこうとする方略を指します。SOCとは,喪失に基づく目標の選択(Lossbased Selection),資源の最適化(Optimization),そして補償(Compensation)のことです。「喪失に基づく目標の選択」とは,若い頃には可能であったことが上手くできなくなったときに,若い頃よりも目標を下げる行為を指します。「資源の最適化」とは,選んだ目標に対して,自分の持っている時間や身体的能力といった資源を効率よく割り振ることを指します。そして「補償」とは,他者からの助けを利用したり補助的な機器や技術を利用したりすることを指します。たとえば,ピアニストが高齢になると,指の力やスピードが必要な高難度の曲を選ばず,無理のない曲を選ぶようになり(「喪失に基づく目標の選択」),身体的に無理のない曲を筋力ではなく表現力で完成度をカバーするようになり(「資源の最適化」),椅子やペダルの補助器具を使ったり他者の助けを借りて演奏をするようになったりします(「補償」)。こうした方略をうまく用いることで,資源を喪失してくことによってもたされる損失を最小限にとどめることができれば,目標を達成することや幸福感が維持されると考えられています。

 Life-span theory of control理論はBaltes(1984)の理論を基に,Heckhausen(1995)が提唱したモデルです。Life-span theory of control理論では,SOC理論の「目標を実現させるための方略」を1次コントロールと呼び,資源の喪失がきわめて大きく,以前の状態に近づくのが困難であるときに,その状態をポジティブに捉えなおしたり,他の人と比較してまだましであると考えたり,目標をあきらめて自分を(無理やり)納得させるという方略を2次コントロールと呼びます。どうしても目標達成が難しいと自分で判断したときに,その状況を認知的に処理することで,幸福感を維持しようとする方略です。Figure2.1 に,1次コントロールと2次コントロールの加齢変化を示しています。高齢期になるに従い,目標の捕らえなおしや考え直しによって自己制御を行う2次コントロールが高くなる,とされています。

Life-span theory of control を提唱したHeckhausenらはこの章の中で,「高齢期はloss-orientedでありgain-oriented の目標が若者と比較して少なくなってくる。この現象をHigginsらの理論に照らし合わせると,ポジティブアウトカムからネガティブアウトカムに注目するように加齢変化するのではないか,つまり,良いものに反応する促進傾向から,悪いものに反応する予防傾向に変化するのではないか」と書いています。中高年期の親子で予防的側面のみ関連するのは,幼児期に形成された予防焦点傾向がめったなことでは変化しないか,もしくは中年期以降は互いに予防的な側面に着目するようになるので,親子の相互作用の中で予防焦点傾向のみがより類似してくるという可能性もあるのかもしれません。そして,「加齢に伴いする増加してくる補償方略」が「理想や目標を下げる」ことであるとするSOC理論やLife-span theory of control理論に基づけば,「促進が減り予防が増える」というよりも,促進的な方略のみを特に調整して変動させる,ということになるのかもしれません。

集団同一視することで態度の確実性が回復する

2017/02/01 17:44 に Saki Nakamura が投稿   [ 2017/02/01 17:47 に更新しました ]

最近の説得研究で注目されている態度の一側面に「態度の確実性」があります。態度の確実性は「自身の態度について持つ主観的な自信や確信の感覚」と定義されます(Abelson, 1988; Rucker, Tormala, Petty, and Briñol, 2014).。今回は,「態度の確実性」について,今年Journal of Experimental Social Psychologyに出版された,関連する集団と同一視することで,態度の確実性が回復することを明らかにした研究を紹介します。

この研究では,まず,実験参加者に社会的問題(リサイクル)に対する態度をたずねました。その後に,態度の確実性の操作として,参加者自身のリサイクルに対する態度の根拠を4つ書かせ,それを全体での議論と比較して,参加者の書いた理由は弱い(確実性が低くなる操作)か強い(確実性が強くなる操作)かをフィードバックをしました。その後,別の課題として,環境問題についてよく知っている集団,もしくは環境問題とは無関係な集団に対してどの程度同一視するかをたずね,そして再度リサイクルに対する態度に対する確実性をたずねました。

以下の図は,集団との同一視の程度に関する結果を示しています。環境問題についてよく知っている集団(Group RelevanceがHighの条件)に対して評価する条件では,「あなたの根拠は弱い」とフィードバックを受けた時のほうが「強い」とフィードバックを受けた時よりも,その集団との同一視の程度が高いことが明らかになりました。
 

さらに,以下の図は集団との同一視の程度を評価する前後の環境問題に対する態度の確実性を示した結果です。弱いフィードバックを受け,なおかつ,環境問題と関連する集団に対して同一視の評価を行った条件では,同一視の評価の前後で態度の確実性の評価に差がありました。つまり,弱いフィードバックを受けたことによって弱まった態度の確実性が,関連する集団との同一視の評価を行うことで,回復したことを示しています。

このようなことが生じる背景として,この研究では,人は自身や世界に対する不確実性を嫌がり,その嫌悪の感覚を軽減し,自身に対する一貫した感覚を維持しようとするために,集団と同一視しようとするという,不確実性ー同一視理論(Uncertainty-Identity Theory)による説明がなされています。
集団同一視をすることの利点はたくさんありますが,態度の確実性という点においては,それに関連した集団と同一視することが確実性の回復に重要だそうです。
(中村早希)

【文献】

制御焦点傾向はどう発達,変化する?

2017/02/01 6:23 に Megumi Tabuchi が投稿   [ 2017/02/01 6:29 に更新しました ]

人は目標を達成するために2種類の行動方略をとるとする制御焦点理論ですが,長い人生の中でどのように変化していくものなのでしょうか。ここでは,“Motivation and self-regulation across the life span ”という本の中でHigginsらが発達的観点から制御焦点理論を論じている章を紹介します。

(書誌情報)

Higgins & Silberman (1998) Development of regulatory focus: Promotion and prevention as ways of living. Heckhausen, Jutta (Ed); Dweck, Carol S. (Ed). (1998). Motivation and self-regulation acrossthe life span, (pp. 78-113).

制御焦点は,人間が社会化の過程で獲得していく自己制御のための行動方略の一つです。人は外界の刺激に対して反応する際に,自己をどういう方向にコントロールするのかの方略を獲得していくのです。促進焦点は利得に焦点化した自己制御傾向。「良い結果」に焦点を当て,それを得ること(たとえば“褒められる”こと)を快として追求するとともに,良い結果を得られないこと(たとえば“褒められない”こと)を不快として避けようとします。予防焦点は損失に焦点化した自己制御傾向。損失の存在を回避するように行動を制御します。否定的な結果が起きないこと(たとえば“叱られない”こと)を追求し,否定的な結果が起きること(たとえば“叱られる”こと)を避けようとします。

社会化の過程で自己制御が発達するためには,周囲の重要な人物との関係が意味を持ちます(このあたり,発達でよくあるBowlby的な考え方と同じ。)例えば愛着の形成などと同じように,幼児期の制御焦点傾向の形成も,重要他者(主たる養育者,研究の多くは母親に着目)との相互作用に影響を受けます。何かあったときの行動方略がそのまま母子で類似する,というよりも,子どもの行動に対して母親が抱く感情と母親の行動を子どもが学習し,相互作用の中で母親と同じような感情を抱くようになるので,行動方略も似てくる,と考えられます。

Table3.2は,促進的・予防的な母親が子どもに対してどのような反応をし,そのときどのような感情を抱くかについてまとめたものです。促進的な母親は,子どもの「良い行動」があるかないかに焦点を当て,あれば満足してご褒美を与え,なければ落胆してご褒美を与えない,という行動をとります。なので,子どもは母親からご褒美(=利益)を得ようと行動するので,促進的な自己制御になると考えられます。予防的な母親は,子どもの「悪い行動」があるかないかに焦点を当て,なければ安堵して何も働きかけず,あれば動揺して罰を与える,という行動をとります。なので,子どもは母親からの罰(=リスク)を避けようと行動するので,予防的な自己制御になると考えられます。Higgins16歳未満の子どもと母親を対象に,子どもの行動に対してどのような感情を抱くかを調べたところ,子どもとのやり取りの中で母親が促進焦点的な感情(よい行動に対する満足感)をより感じている場合は,子どもも促進焦点的な感情をより感じており(r=.28),母親が予防焦点的な感情(悪い行動に対する動揺)を経験していると,子どもも予防焦点的な感情を感じている(r=.45)ことが分かりました。

さて,自己制御の方略が形成し終わった,幼児期以降は制御焦点傾向がどう変化するのでしょうか。制御焦点傾向が人生の中で人の行動の決定と,そのときの感情に大きな影響を与えるのは,中高年期になってからも同様です。例えば中高齢期になると身体的変化によって健康的なポジティブな状態を保つことが難しくなりますが,そうした変化に対してどんな感情を抱くのか,どう行動するのかに,制御焦点傾向は大きく影響します。促進的な人は「良いものの獲得の有無」に焦点を当てるので,身体的な魅力(外見的魅力や身体的な優れた能力)の変化に対して喜んだり落胆したりします。一方,予防的な人は「悪いものからの回避」に焦点を当てるので,健康の悪化(病気になる,怪我をするなど)に対して動揺したり安堵したりします(Brendl & Higgins, 1995)

 この章では,社会化の過程で獲得された制御焦点傾向を,長期的に変化のない,かなり根強い性格特性的な部分として捉えています。しかし,この制御焦点傾向が長い人生の中で変化(発達?)していく可能性も十分にあるので,さらなる研究の発展に期待します。

…ということで,この章では中高年期に制御焦点傾向がどうなっていくのかについては詳しい議論はないのですが,今回のFAX調査で幅広い年齢層に制御焦点傾向を調査できたので,前回の学生データと合わせて単純に年齢との相関をみてみました。すると,

 促進焦点が,特に女性では高齢のほうが若年よりも弱くなるのではないか,という傾向が認められました。高齢になると予防傾向が強くなってくるわけではなく,むしろ予防傾向は親との相互作用の中で発達したのちあまり変化がなく,身体的変化にあわせて促進傾向が変化する,のかもしれません。制御焦点傾向の変化や中年期以降の親子類似性については,まだまだ謎が多いです。

説得の効果を高めるためには?その②:Multiple Source Effect

2017/01/11 20:03 に Saki Nakamura が投稿   [ 2017/01/11 20:04 に更新しました ]

相手を説得させるには,どのような手段が有効でしょうか? 今回は,複数人が同じ唱導方向に説得する方が1人で説得するよりも説得の効果が大きいというMultiple Source Effectをもとに,どのような説得が有効であるかを考えてみたいと思います。
 

まず,Multiple Source Effectの存在を確かめた,Harkins and Petty (1981) の研究について紹介します。彼らは,3人あるいは1人の説得者が,1つまたは3つの論拠が含まれたメッセージで参加者を説得するという実験を行いました。その結果,説得者が3人でかつ論拠が3つあるメッセージを受ける条件では,他の条件よりも説得の効果が大きいことが示されました。これはMultiple Source Effectの存在を示しており,各説得者がそれぞれ異なる論拠を持っていることがミソであることを示しています。

さらに,Harkins and Petty (1987) は,Multiple Source Effectの詳細について検討をしています。その結果,説得者が何人であるかという情報は論拠よりも先にある場合に生じることを明らかにしました。さらに,説得者が複数人であっても,その人たちが似たような人たちではなく,異なる背景を持った人たちであることが重要であることを示しました。

Multiple Source Effectに関する研究結果から,以下のことを意識して説得を行うことが有効かもしれません。
①複数の説得者がそれぞれ論拠を持っていること
②説得者がたくさんいるということを説得の受け手に先に認識させること
③同じ考えを持っている人で集まって説得をするよりも,いろんな背景を持った人が集まって説得をすること
大事な交渉の時に,ぜひこれらのことを意識してみてください!
(中村早希)
【参考文献】

歳をとると不健康な「悪いお手本」にも目を向ける

2017/01/10 23:35 に Megumi Tabuchi が投稿   [ 2017/01/11 19:36 に更新しました ]

 人間の行動方略は,加齢に伴ってどう変化していくのでしょう。「歳をとって守りが固くなった」という台詞はよく聞かれますが,本当に「攻めから守りに転じる」加齢変化はあるのでしょうか。今回は,加齢変化を直接みているわけではないものの,「いいお手本をみてそれに近づこうとするのか,悪いお手本をみてそれを回避しようとするのか」の行動方略について,高齢者と若者を比較した研究を紹介します。

Lockwood, Chasteen, & Wong (2005)Lockwoodはわれらが,というより尾崎先生が日本語訳を作ってくださっている「接近回避尺度」を作ったお人)は,人の健康行動が何によって動機付けられるのかが,若者と高齢者で異なるのではないかと考えました。若者はこれからいろいろと「獲得」していく未来を見ており,自分自身が健康を次第に失ってよぼよぼになっていくことはあまり考えないので,健康で元気な「よいお手本」の人を目指そうとする,つまり促進的な行動方略を好むのではないか,と予想しました。一方,高齢になってくると自分も不健康な状態を経験していたり,あるいは周囲の同世代の不健康状態や死を経験したりして,自分が死に近づく未来が現実のものとしてよりはっきり見えているので,「悪いお手本」にも動機付けられるようになるのではないか,と考えました。

まず研究1では,72名の若者(平均20.82±2.03歳)と68名の高齢者(平均65.69±4.14歳)を対象に調査を行いました。「誰かがあなたの日々の健康行動を変えようと助言している,と想像してみてください。すごく健康的な人が『よいお手本』として助言しようとする場合もあるでしょうし,体調がすごく悪い人が『悪いお手本』としてあなたに注意しようとすることもあるでしょう。実体験でも空想でもかまいません,想像してください。そしてどんな風に助言してくるか詳しく書いてください。」と教示しました。その結果,高齢者では50.77%が『悪い見本』の例を報告したのに対し,若者では『悪い見本』を報告したのは32.86%でした。

 そこで次の研究では,61名の若者(19.68±3.91歳)と45名の高齢者(67.67±3.91歳)を対象に調査を行い,各個人の制御焦点傾向と,「よいお手本(めっちゃスリムでスタイルいい人,めっちゃ健康な人等)」,「悪いお手本(めっちゃ太った人,病気持ちの人,等)」の6種類ずつの人にそれぞれ健康改善を進められたらどの程度やる気になるか,を測定しました。まず,促進も予防も若者の方が高く,かつ促進の方が予防よりも高いという傾向は,若者の方が強い結果となりました(Figure1)。
 そして,「どちらのお手本によりやる気になるか」を比較したところ,若者は「よいお手本」の人にすすめられたほうがやる気になるけど,高齢者では「よいお手本」でも「悪いお手本」でも同じぐらいやる気になる,ということが分かりました(Figure3)。なお,高齢者だけで調査を行ったところ,促進的な人は「よいお手本」,予防的な人は「悪いお手本」でよりやる気になる,という結果になりました。

 もし行動方略としての制御焦点傾向に加齢変化があるのだとすれば,リスクや失敗の経験や予測が人生の長さに比例して増え,それが身体の衰えと相俟って,促進的な方略を容易にとらなくなる,ということかもしれません。


(文献)

Lockwood, P., Chasteen, A. L., & Wong, C (2005) Age and Regulatory Focus DeterminePreferences for Health-Related Role Models. Psychology & Aging, 20(3), 376–389.

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