インターネットでの会話は現実場面での人間関係を向上させるのか?

2016/04/27 20:06 に Saki Nakamura が投稿   [ 2016/04/28 0:12 に更新しました ]
今や携帯電話・スマートフォンを持っているのが当たり前となっている。電話やメールのみならず,Skype, Twitter, Facebook, LINEといったSNSが普及し,遠く離れた人とさまざまな形でコミュニケーションをとることができるようになっている。
今回は,インターネットを通じたコミュニケーションが,現実場面での人間関係にどのような影響を及ぼすかについて,まずBoase & Wellman (2006)をもとに,インターネットと現実のコミュニケーションに関する研究の背景を紹介したのち,これに関連するBoase (2008) と Przybylski & Weinstein (2013) 2つ論文を紹介します。




インターネットが現実のコミュニケーションに及ぼす影響についての2つの考え:ユートピアンとディストピアン
1990年代のメディア研究では,インターネットを使ったコミュニケーションが現実の人間関係にどのような影響を及ぼすかについて,2つの考え方に分かれていました。一つはユートピアン(理想郷)で,Mashall McLuanが提唱した「global village(地球村)」というように,インターネットは世界中の人とつながれる夢のようなコミュニケーションツールであるという考えです。もう一つはディストピアン(暗黒郷)で,インターネットは現実世界のコミュニティを破壊するという考えです。この2つの考えについて,それぞれを支持する知見が出てきました。

インターネットは現実場面での人間関係の維持や形成に役立つ
Boase & Wellman (2006) 中に紹介されている,Shklovski, Kiesler, & Kraut (2006)の研究では,1995年から2003年にわたって縦断的にインターネットと現実場面における対人関係について検討しています。その結果,インターネットを使用した他者とのコミュニケーションは,友人関係を維持するのに役立つことが明らかになりました。しかし,家族などの近い人については,インターネットがその関係を維持する効果があまりないことが示されました。また,新たに遠く離れた人との関係を作るのに,インターネット上のコミュニケーションが有用であることも示されていますが,このような使い方をする人は一部に限定されているといいます。

ただし,それぞれのコミュニケーションツールには,どういう関係の維持に役立つのか得意不得意がある
Boase (2008)では,2200人のアメリカ人を対象に,対面,固定電話,携帯電話,メールの4つについて,実際の対人関係の維持にどれほど役に立っているかを電話調査で検討しました。この調査では,その人個人のネットワークのサイズ(友人,職場の人間,ご近所さん,親戚の数)とネットワークの多様性(その人との関係の強さ)と,各コミュニケーションの手段(対面,固定電話,携帯電話,メール)での1週間でコミュニケーションをとる人の数を,参加者に尋ました。その結果,対面のコミュニケーションでの接触は,友人,職場の人間,ご近所さん,親戚の数の多さのすべてと関連がありました。しかし,メールの利用頻度の多さは,友人,職場の人間,親戚の数の多さと関連があった一方で,ご近所さんの数とは関連がありませんでした(Table 1)。このように,コミュニケーションをとる相手との関係性によって,どのコミュニケーションツールが使われるかが異なることを示しています。

Boase(2008)Table 1

インターネットは目の前にいる人とのコミュニケーションの質を低下させる
ここまでは,インターネットが現実の対人関係に及ぼすポジティブな効果について述べてきました。しかし,インターネットの利用はいいことばかりではなく,ディストピアンに一致するような知見もあります。Przybylski & Weinstein (2013) は,関係形成に重要な話題の時に,携帯電話があるだけで目の前の人とのコミュニケーションの質が低下することを以下のような実験で示しています。
Przybylski & Weinstein (2013) のStudy 2の実験を紹介しています。


実験はFigure 1のような配置の実験室で行われました。この時,実験室内の机の上には,携帯電話が置いてある場合(携帯電話あり条件)と,携帯電話と同じくらいのサイズのノートがおいてある場合(携帯電話なし条件)がありました。実験参加者は,もう1人の参加者と2人1組になり,そこで会話する内容が「今年1年で最も重要な出来事について」話す条件(重要な内容条件)と,「プラスチック製のクリスマスツリーについて」話す条件(重要でない内容条件)の2つのパターンがあり,参加者はそのうちのいずれかのテーマについて10分間会話をしました。そのあと,「もっとコミュニケーションをとれば,相手を友達になれると思うか」といった関係の質を尋ねる質問に回答しました。その結果がFigure 2です。重要な内容条件でのみ,携帯電話が置かれているときのほうが,相手との会話の質の評価が低くなっていることがわかります。

Przybylski & Weinstein(2013)のFigure 2の一部を抜粋
□が携帯なし条件で,■が携帯あり条件。
casual(左側)が重要でない内容条件で,important(右側)が重要な内容条件。

インターネットでの会話は現実場面での人間関係を向上させるのか?
インターネットを通したコミュニケーションは,全般的には他者との関係を維持するのに役立ち,また遠く離れた人と新たに関係を築く上で有効であることがわかりました。その一方で,コミュニケーションツールは,私たちをますます夢中にさせるあまりに,目の前の人とのコミュニケーションの質を落としてしまうという知見もあります。
Przybylski & Weinstein (2013)では,論文の最後に「携帯電話は,遠く離れた何十億もの人とのコミュニケーションを成立させるという,夢のようなコミュニケーション促進ツールであるにも関わらず,その携帯電話でのやりとりの面白さゆえに,携帯電話の存在が目の前にいる人とのコミュニケーションがおろそかになってしまう,という逆説的な問題を抱えてしまっている。」書かれています。この言葉が指摘するように,インターネットの世界はユートピアにもディストピアにもなりうると考えられます。SNSが普及した現代社会において,これらのコミュニケーションツールが,私たちの現実での人間関係を破綻させる原因にならないように使い方を考える必要があるのかもしれないですね。
(中村早希)

【引用文献】
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