必ずしも自己説得が通常の説得よりも成功しやすいとは言えない

2016/06/15 20:05 に Saki Nakamura が投稿   [ 2016/06/28 3:22 に更新しました ]
最近,お客様アンケートなどで「この商品の良いところを書いてください」や「このお店に来る理由を書いてください」という項目を見かけたりしませんか?このような説得したい事柄について,被説得者自身にそのメリットを書かせて,被説得者の態度を変容させようとする説得方法を自己説得といいます。自己説得は通常の説得よりも,心理的リアクタンスが少なく,説得の効果が大きいと言われており,自己説得によって変容した態度は長期にわたって持続することが言われています。
しかし,必ずしも自己説得のほうが通常の説得よりもうまくいくのでしょうか?今回は,自己説得がうまくいかない場合があることについて,自分の行動をコントロールできる感覚 (これをsense of agency という) に注目したDamen, Müller, van Baaren, & Dijksterhuis (2015) を紹介します。

sense of Agency :自分の行動をコントロールできる感覚
sense of agency とは,自身の行動をどれだけコントロールできるかという認識と外的な要因によって引き起こされた行動を区別する能力のことを言います。環境に対してうまく対応できたという経験のあとに,sense of agencyが高くなることが言われています。
これまでの知見から,sense of agencyが高い人は,自分の意見とは反対の意見を書かせることによって,自身の態度変容が大きいことが言われています。その一方で,sense of agencyが低い人は,自分ではコントロールが及ばないような外的な要因に引っ張られることが言われています。このようなことから,著者らはsense of agency が低い時には直接説得の方が効果が大きく,sense of agency が高い時には自己説得の方が効果が大きくなるのではないかと予測しています。

方法
120名の大学生を対象に実験を行いました。参加者はランダムに,Agency (High / Low)×説得技法 (直接説得 / 自己説得)の4つの条件のうちの1つに割り当てられました。

sense of agencyの操作
まずsense of agencyの操作として,音程の違う2種類の音(600 Hzと1000 Hz)を判断する課題を行いました。全30試行のうち,High agency 条件では,注視点が提示されたのち100 ms後に必ず音が鳴る試行が24試行で,残りの6試行は注視点が消える50 ms前かボタンを押してから7550 ms後に音が鳴るように設定されていました。一方でlow agency条件では,注視点が消える50 ms前かボタンを押してから7550 ms後に音が鳴る試行が24試行あり,残りの6試行は注視点が提示されたのち100 ms後に必ず音が鳴るように設定されていました。

説得方法の操作
sense of agencyの操作の課題が終わったのち,参加者は自身の大学のある都市の街並みをきれいにしておくべきだという説得を受けました。自己説得条件では,なぜ街をきれいにすることが重要なのかについて参加者に2分間記述させました。一方で,直接説得条件では,なぜ街をきれいにすることが重要なのかに関する5つの論拠を参加者に提示しました。その後,「都市をきれいにしておくことが重要だと思います」という主張に対して,どの程度同意できるか「1・全く同意できない」から「11・強く同意する」の中から回答をさせました。

結果
その結果がFigure 1です。High Agency 条件においは,予測と一致して,自己説得を受けた時のほうが,直接説得を受けた時よりも,説得トピックに対してより同意を示していました。一方で,Low agency条件では,Figure 1を見ると直接説得の方が自己説得よりも同意の程度が大きいように見えますが,統計学的には自己説得と直接説得で説得に対する同意の程度に意味のある差として認められませんでした。この研究の結果は,必ずしも自己説得が直接説得よりも説得の効果が大きいとは言えないという1つの証拠になるだろう。
 

(中村早希)

【引用文献】
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