対話的エージェントを用いた説得

2016/11/02 21:18 に Saki Nakamura が投稿   [ 2016/11/07 2:27 に更新しました ]
コンピューター技術の発展は目覚ましく,こうした技術を用いて,人の態度や行動を変えようとする試みが増えています。近年のコンピューター技術の特徴の一つは,人同士の相互作用を可能にし,メディア環境にいる他者とまるで直接相互作用をしているかのような錯覚を引き起こします。このようなメディア環境の中にいる他者と「一緒にいる」ような感覚を社会的存在感といい,コンピューターで生成された仮想環境における説得ではよく使われている概念です。しかし,コンピューター環境を用いた説得の研究はこれまでにも行われてきましたが,こうした社会的存在感の詳細な役割に注目した研究はほとんどないとのことです。そこでSkalski & Tamborini (2007) は,コンピューター上の社会的エージェントの対話性や魅力が社会的存在感に影響し,またそれがどのような態度変容プロセスを引き起こすのかについてHSMの考えをもとに検討しました。
※HSMに関してはこちらの記事を参照してください。


この実験では,125名の参加者が無作為に2(エージェントの対話性:あり/なし)×2(エージェントの魅力:魅力的/魅力的でない)の4つの条件のうち1つに割り当てられました。参加者はPC上のCardia (カルディア)と名付けられたエージェントから高血圧予防行動を促進させる5つのメッセージを受けます。そのあと,社会的存在感に関する質問項目,高血圧予防行動に対する態度の項目,メッセージを精査した度合に関する質問項目に答え,さらにメッセージを受けている最中に思い浮かんだことをリストアップする作業を行いました。リストアップした思考は,コーダーによって,エージェントに対する思考あるいは内容に関する思考に分類され,さらにその思考が肯定的あるいは否定的であるかに分類されました。
説得を行うエージェントの対話性は,5つのメッセージを参加者が好きな順番で見ることができるかどうかで操作されました。具体的には,対話性あり条件では参加者は好きな順番で5つのカテゴリーについて説明を聞くことができ,エージェントから他のセクションも選ぶように働きかけがありました。一方で,対話性なし条件では,決められた順番で5つのカテゴリーについて一方的に聞かされるのみでした。また,エージェントの魅力はCurious Labs 社のPoserというソフトで操作されました。魅力的なエージェントの場合は「笑顔の素敵な女性」の動きを,魅力的でないエージェントの場合は魅力度の低い動きが用いられました。

その結果,エージェントの対話性は社会的存在感を高め,社会的存在感が態度に影響することがわかりました。魅力的なエージェントの場合には,エージェントに対する好ましい思考が増えました。魅力的でないエージェントの場合においてもネガティブな思考が減少しました。つまり,魅力の高低に関係なく,エージェントの対話性が社会的存在感を増す場合には,肯定的な思考が増えることが明らかになりました。
そして最も注目すべきなのは,魅力的なエージェントの場合には,メッセージへ注意を向けた度合が態度に影響するという結果が得られました。これは魅力的なエージェントの条件では,社会的存在感がシステマティックに処理するように影響したことを示しています。



※ Figure 2は魅力的なエージェント条件の結果,Figure 3は魅力的でないエージェント条件の結果を示しています。
図中のSource Thoughts は,エージェントに対する思考の肯定度合を示しています。
この研究ではSource Thoughts が態度に影響する場合にはヒューリスティック処理が,
Message Processing が態度に影響する場合にはシステマティック処理が行われたとみなしています。

この研究の新しさとして,メディアによる説得過程について,HSMに基づいた検討を行うことで認知的な側面を強調した検討を行ったこと,さらに新しいメディアの特徴の1つの対話性もまた説得の効果を高める要因であることが明らかになったことを挙げています。

最後にコメントですが,この研究では人による説得過程で明らかになったHSMで説明を試みたり,社会的存在感を仮定していることなどから,コンピューター技術による説得も人と同じように扱えられているように感じます。コンピューター技術は人の力ではできないことを可能にするという点で,こうした技術を用いてこそできる効果的な説得や特異な説得過程に注目していくことが,今後の説得研究の面白い展開の1つになるかもしれないと思いました。
(中村早希)
【引用文献】
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