百歳以上の人たちを研究する

2016/06/14 3:51 に Megumi Tabuchi が投稿
 「百歳以上の人」というと,どういう人を想像するでしょうか?長寿家系でない限り,直接出会ってお話をしたことがある人は少ないかもしれません。百歳まで生きることができる人はそうそういない,めったに会うこともない特殊な人たちだというイメージもあるかと思います。実際,百歳以上の人=百寿者は今,日本にどのぐらいいらっしゃるのでしょう。ここでは,日本の百寿者事情と,百寿者研究の課題について考えてみたいと思います。

 厚生労働省の報告によると,住民基本台帳に基づいた日本全国の百寿者の総数は,なんと2015年で61,568人になったとのこと。そして全体の約87%が女性です。これは世界的に見てかなりの人数。さすがは長寿大国といったところです。

 さらに,今後も日本の百寿者の数は世界トップクラスのハイスピードで増加することが予測されています。Jean-Marie,Cheung, Saito, Jeune, Parker, &Herrmann (2010)が,5-COOP Project(5-Country Oldest Old Project)のデータを用いて5カ国の百寿者増加率を予測したところ,日本は10年後には女性で4.5倍百寿者が増加するという結果が報告されています(Table1)

 百寿者研究はサンプルが少なく一国のみで長期的な大規模データを取得できないので,各国で共同研究をする必要があります。5-COOP Projectとは,日本,フランス,スイス,スウェーデン,デンマークにおいて,長寿の生物学的,人口学的,心理社会学的要因を明らかにするため,百寿者のデータを継続的に集めて研究を行っているグループのプロジェクトです。Jean-Marie(2010)らの研究からも分かるように,数も多く長寿化のスピードも早い日本の百寿者データは世界から注目されています。

 このように,日本では人口はどんどん増えているのですが,「自立した百寿者」人口は増加していないという現状があるようです。わが国の百寿者研究の第一人者である権藤先生のお話によると,例えばデンマークでは1995年から2005年に自立に問題がある百寿者は,特に女性で減少傾向にあるのですが,日本では自立した百寿者は減少しており,調査への参加率も減少しているとのことです。海外では百寿者人口が少ない分,「真に強い選ばれし人」だけが生き残っている,ということでしょうか。

 こうした各国における百寿者事情の違いは,百寿者研究を行う上での難しさを生み出しています。例えば,日本では「百寿者に体力テストをやる」というのは危険すぎてなかなか難しいのですが,スウェーデンやデンマークの研究者間では,体力評価をすべきとの指摘が挙がっていたり,日本ではMMSE(認知機能検査)30分間やるだけでも,調査者も参加者もへとへとになるような状況なのに,海外では2時間ぐらいのテストバッテリーをどかんと取っていたりする,そうです。日本人サンプルはばらつきが激しいだけに,海外と同じ指標を使用することが非常に難しいのです。


 このように,なかなかデータを集めることが難しい百寿者研究ですが,非常に魅力的な分野でもあります。百寿者研究者いわく,百歳の人たちの研究をすることで,究極的に「年齢とは何なのか,老いるとは何なのか」「何が健康なのか」「病的な加齢をしないとすれば,人の『一般的加齢』とは何なのか」を探ることができる,とのことです。長寿大国としての日本の百寿者研究者の活躍が,今後も期待されます。


☆この記事は,「2016年度老年社会科学会第58回大会 シンポジウム『百寿者研究の勧め』」での議論を参考にしました。


【引用文献】

Jean-Marie, R., Cheung, S. K., Saito, Y., Jeune, B., Parker, M. G., & Herrmann, F. R. (2010) CentenariansToday: New Insights on Selection from the 5-COOP Study. Current Gerontology and Geriatrics Research, doi:10.1155/2010/120354




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