実験参加者はみんな「いい人」?

2016/05/18 2:18 に Asako Miura が投稿   [ 2016/05/31 21:43 に更新しました ]
心理学では,何らかの理論から導出された仮説を科学的手法によって収集されたデータによって検証することが旨とされます.しかし,同様の手法を採る物理学とは異なり,対象が人間であり受動的な刺激の受け手ではないために,実験が行われる環境や社会的文脈がその検証過程に「入り込む」可能性がよく指摘されます.その典型が要求特性(demand characteristics)であり,実験参加者はしばしば実験者の仮説を読み取りそれに忠実に振る舞う「良い参加者」であろうとするといいます.そのことが「仮説が検証されたように見える」結果を多く生み出しているのではないか,という危惧も表明されているのですが,直接的にそれを検証した研究は数少ないようです.

それにチャレンジしたのがNichols, & Maner(2008)です.ここではその実験手続きと結果をダイジェストで紹介します.

仮説
H1:平均的に,実験参加者は仮説に関する情報を実験前に呈示されるとそれを確証するような反応をするだろう.
H2~H4:略

参加者
100名(男女各50名)の「心理学入門」受講者.過去に研究法科目を受講したことがない(つまり要求特性に関する知識もない)ようなナイーブな対象として選んだ.

手続き
(1)サクラとの接触
実験参加者が到着すると,実験者は実験参加者に「私が別の参加者の実験を終わらせるまで外で待っていてほしい」と告げる.次に実験者はサクラ(必ず男性)を実験室から連れ出して来て,彼を実験参加者のごとく扱い,実験参加者に「実験の準備ができたら戻ってきます」と告げて再度実験室に戻る.ドアが閉まった後に,サクラは実験参加者に「この研究は人が右より左の画像を選びやすいかどうかを見るために計画されたものだ」と話す.実験参加者は,実験者の仮説は「人は右より左の画像を選択しやすい」というものだと告げられる.この仮説は「左側選好,右側非選好」を特定するもので,なぜそうするかというと実際は右側に呈示された物がやや選好されやすいバイアス(Chokron & DeAgostini, 2000)が存在するからである.となれば,「左側バイアス」仮説があるという情報を与えると,実験参加者がその仮説を確証するためには,生来の右側バイアスを乗り越えなければならない.加えて,サクラが(実験者の代わりに)この情報を伝えることで,実験参加者が事前知識を持ってセッションに参加するという,現実場面でよくある状況を検証することができるようになる.
(2)実験遂行
サクラが出て行くと,実験者はドアを開けて実験参加者を招き入れ,挨拶してから「実験は実験者の修士論文研究だ」と告げる.そして実験者は実験参加者に事前同意書(研究目的に関する一般的な文章だが特定の研究仮説や実験の内的妥当性を毀損するような詳細な記述は含まれていない)を渡す.事前同意後,実験者は実験参加者に画像課題の実施方法について教示する.この課題では10組の画像がコンピュータのスクリーンに1組ずつ表示される.画像はIAPSから快が中程度(10点尺度で4.9-5.1)の写真セットから選ばれており,ニュートラルなもの(いすやランプ)から成っている.画像の左右位置はランダムにし,同じ画像を左右それぞれで見る実験参加者が同数になるようにカウンターバランスした.実験者が1組の画像を表示させるたびに,実験参加者は好みの1枚を選択した.左の画像を選んだ数(0-10)を仮説確証行動として得点化した.

結果
「左選択数」=仮説確証行動のヒストグラムはFigure 1を参照.もし選択に偏りがなければ左の画像を選ぶ数は5になるはず.「左選択数」=仮説確証行動の平均値(SD)は5.67(1.64)で,5と比較するt検定の結果は有意(t(99)=4.09, p<.001, r=.38)であった.1回しか左を選択しなかった人は1名で,79%が4-7回選択していた.つまり,実験参加者は仮説に関する情報を実験前に呈示されるとそれを確証するような反応をしやすいことが示された.

さて,こうした「良い参加者」効果は海外では所与のものと見なされているようですが,果たして日本ではどうでしょうか.これに関する研究は管見の限り存在しないようです…

References:
Nichols, A. L., & Maner, J. K. (2008). The good-subject effect: Investigating participant demand characteristics. The Journal of general psychology, 135(2), 151-166.
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