JESP再現可能性特集号(1)

2016/04/08 17:05 に Asako Miura が投稿   [ 2016/04/14 14:47 に更新しました ]
Journal of Experimental Social Psychologyで再現可能性特集号が出ます.この特集号は,刊行までにあれこれすったもんだがあったようで「JESPのWebサイト上で一旦 in press になった論文が撤回された後に復活する(Curran, in press)」「著者サイトで in press になっている論文が延々と掲載されない(Berinsky et al., in press)」といった現象が観察されましたが,先頃ようやくラインアップが分かりました.JESPでは異例(これまでに見たことがない)の provisional PDF(まだ刊行レイアウトになっていない著者最終稿)による公開です.この特集号から,いくつかのセクションに分けて,興味深い論文を紹介していこうと思います.

今回は「社会心理学界の大物からのコメント」と題して以下の3本を紹介します.

Roy F. Baumeister 嵐の海に翻弄される社会心理学の未来予想図:勝ち組?負け組?そして打開策は?

Roy Baumeister is a social psychologist who explores how we think about the self, and why we feel and act the way we do. He is especially known for his work on the subjects of willpower, self-control, and self-esteem, and how they relate to human morality and success.

日本語に翻訳された近著には『WILLPOWER 意志力の科学』があります.おそらく彼が提出した中でもっとも有名なのは ego depletion(自我消耗)に関する理論で(cf: Baumeister, Bratslavsky, Muraven, Tice, 1998),焼きたてのチョコチップクッキーが「すぐそこに置かれているのに食べられない」状況で我慢させられると,別の課題での我慢がきかなくなる,という例の実験のやつです.Google Scholarによれば引用件数が3000を超えています.

たいていの人間は自己制御ができず困っていますから,学界のみならず一般受けもとてもよく,多くのサイエンスライティングがなされています.といっても,日本語記事はみな翻訳ですが…例えば,「意志の力」が減っていく理由(2012.10.10 WIRED),人はなぜ不機嫌になるのか:自制心と怒りの研究(2011.3.29 WIRED)など.そしてまさにこの ego depletion の再現性が確認できないことが話題になっています(当該論文はPerspectives on Psychological Scienceの4月号に掲載される予定とのことですが4/14時点でまだ閲覧できません).Slateの記事"Everything Is Crumbling"には再現性検証までの経緯やBaumeisterのコメントなどが詳しく書かれており参考になります.

さてBaumeristerがこの論文出表明しているのは,,社会心理学の「危機」と,それに呼応してより大きなサンプルとより多くの追試が求められていることについて,正確性を増すメリットを認めると同時に探索や発見を犠牲にするのではないかという危惧です.求められていることができる大きなラボや破壊的な因習打破主義者は勝ち組になれるだろうが,若い研究者や研究レビューをよくする人,テキストを書く人,小さな大学にいる研究者,そして創造的なアイディアを閃かして研究するタイプの人たちが負け組になってしまうのではないかと(自分はビッグラボのボスに安住しているわけですが…)と訴え,探索的な研究の流れを断ち切らないようにと主張しています.メインメッセージは,

Explore small and confirm big.

Wolfgang Stroebe 社会心理学の論文はほとんどニセなのか? いや,そんなことはない!

German social psychologist and Emeritus Professor of Social Psychology at the Utrecht University and the University of Groningen, particularly known for his works "Introduction to social psychology" and "Social psychology and health," and on brainstorming. (Wikipediaより)

個人的にはブレーンストーミングにおける生産性ロスに関する研究(Diehl & Storebe, 1987)の第2著者として院生時代から big major な研究者なのだが,こういう特集号で御大としてコメントを求められるような偉い人とは最近まで知らなかった.

彼が論じているのは主にデータ解析に関する問題で,ベイズ主義の理論に基づいて「公刊されているほとんどの(頻度主義の)研究知見は間違っている」と主張するIoannidis(2005)を社会心理学にそのまま当てはめるのは性急だと批判し,大規模な追試プロジェクトも社会心理学研究の妥当性に関する一般的な結論を導くに値しないと主張している.Ioannidisの主張は追試なしの「一発」研究や検証された確率が真である事後確率が低いケースにしか当てはまらず,また,追試で再現できなかったからといって元の知見が妥当ではないということの証明にはならない,というのがそれぞれの主張の根拠として述べられている.そして結論は,

More conclusive information is provided by meta-analytic tests of social psychological theories.

Fiske, S. T. ちゃんとした実験をして論文を書くために大事な3つのこと

Fiske publishes widely in social cognition. She has written more than 300 articles and chapters, as well as editing many books and journal special issues. Fiske’s work has had real-world impact. . The U.S. Supreme Court in a 1989 landmark decision on gender bias cited her expert testimony in discrimination cases. In 1998, she also testified before President Clinton’s Race Initiative Advisory Board, and in 2001-03, she co-authored a National Academy of Science, National Research Council report on Methods for Measuring Discrimination. 

うろ覚えですが,確か前回か前々回の大統領選挙で民主党候補選対チームに入っていたような気が(後で確認します).

彼女が論じているのは,論文のレベルを保つために必要なのは,(1)妥当な理論,(2)内的妥当性,(3)外的妥当性,の3点だというごく当たり前の話.紙幅も一番短いし,多分そんなに大したことは書いてない(≒重要なことではあるけど,目新しいとはいえないことが書いてある)…んじゃないだろうか.そして,そういう努力は社会的「影響」によって生じる(自発的な)ものであるべきで,規制を作って違反したら罰する,といった圧力によってなされるべきではない,とも主張している.

Norms about acceptable research methods change by social influence, not by regulation.

(執筆者:三浦麻子)
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