機内で暴れる乗客、ファーストクラスの存在が原因? は,ほんと?

2016/06/07 0:40 に Asako Miura が投稿   [ 2016/06/07 16:24 に更新しました ]
DeCelles, K. A., & Norton, M. I. (2016). Physical and situational inequality on airplanes predicts air rage. Proceedings of the National Academy of Sciences, 201521727.

マスコミで大きく採り上げられ,話題になった論文の検証です.以下に,引用先CNNの記事は下記の通りです.
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機内で暴れる乗客、ファーストクラスの存在が原因?
2016.05.03 Tue posted at 21:10 JST

(CNN) 頭上の荷物入れやアームレストを巡って争ったり、殴り合いや蹴り合いに発展したり、客室乗務員を怒鳴りつけたり――。旅客機の乗客がそんな騒ぎを引き起こす一因はファーストクラスの存在にあるかもしれないという研究結果が、2日の米科学アカデミー紀要に発表された。
それによると、ファーストクラスがある旅客機の場合、エコノミークラスの乗客が騒ぎを起こす確率は、ファーストクラスがない旅客機の3.84倍に上ることが分かった。
搭乗する際にファーストクラスの区画を抜けてエコノミークラス区画に入った乗客が騒ぎを起こす確率は、直接エコノミークラスに入った場合の2.18倍だった。
この論文をまとめたカナダ・トロント大学のキャサリン・ディセレス准教授は、「人は貧しさや不平等を感じると行動に出る傾向が強まる」と解説する。
騒ぎが増えるのはエコノミークラスの乗客だけではない。全乗客がファーストクラス区画を通って搭乗した場合、ファーストクラスとエコノミークラスでそれぞれ別の入り口がある場合に比べて、ファーストクラスの乗客が騒ぎを起こす確率がほぼ12倍になることも分かった。
「社会的に高い地位にある人が自分の地位を意識すると、反社交的で高慢な態度になり、思いやりが薄れる傾向がある」とディセレス氏。
調査に当たっては、過去数年の間に国際便の機内で起きた騒ぎに関するデータベースを調べた。その結果、ファーストクラスがある便の場合、騒ぎが起きた件数は1000便につきエコノミークラスで1.58件、ファーストクラスで0.31件。合計すると数年で数千件の騒ぎが起きていた。
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Table 1 機内トラブルの記述統計
トラブルを起こした乗客の性別:女性23.83%, 男性72.49%, 2名以上 0.66%, 不明 3.02%
トラブルの内容:酒酔い 31.75%, けんか 29.00%, 乗務員の指示に従わない 18.67%, 喫煙 10.90%…
発生したキャビン:F 15.26%, Y: 83.98%, 不明 0.76% 
→当然「ビジネス(C)クラスは?」となるわけだが,SIによると用いたデータのうち3クラス編成だったのはわずか0.03%だったそう.その3クラス編成のC客にトラブル事例はなかったこともあり,CとFは統合した.長距離国際線でない限り3クラス運用はされてないということでしょうか.

モデル1:収集した全フライトデータを対象とした分析.Y客のトラブル有無が従属変数.Economy/First class seatsは席数.それぞれの独立変数の記述統計量と変数間相関はTable S1参照.
モデル2:Fクラスがあるフライトのみを抽出して,Y客のトラブル有無が従属変数で,乗客が前方から搭乗して(Y客はFクラスを通過して)着席しているかどうかをメインの独立変数としている
モデル3:Fクラスがあるフライトのみを抽出して,F客のトラブル有無を従属変数とし,乗客が前方から搭乗して着席しているかどうか,Fクラスの席数とシートの広さを独立変数に加えている(F客はYクラスを見ることがないので,Y関連の第3変数は省いている)
→モデル3で前方搭乗が「11.86倍」をたたき出しているが,後方からY席を通ってF客が搭乗することなどないし,Fクラスが後ろにあることもないので…不思議+Fクラスのシートの広さ(贅沢さ加減)はトラブル発生有無に影響を持っていない

で,これに対する反論記事がこちら→Ahhhh, PNAS!

分析に関するクレイム例:
– Coefficient estimate and standard errors such as “1.0031** (0.0014)” (yes, that’s statistically significantly different from the baseline value of 1.0000). ええ,そりゃ統計的には1.0000と有意に異なるんでしょうけどね!
– Another coefficient of “11.8594” (dig that precision) with a standard error of “11.8367” which is still declared statistically significant at the 5% level. Whoops! 有意っつっても,どんだけSEでかいわけ!


つまりはキラキラ星を並べただけの有意だったらそれでいいだろ的な分析はいい加減にしろ,ということなんだと思います.なんかこう,細部はよくわからないのですが,かなりお怒りなことは伝わってきます…
確かに,ロジスティック回帰係数は「倍数」として語ってよいわけですが,実際問題どの程度トラブルが起きているかと言えば,

The authors don’t share any of their data, but they do say that there were between 1500 and 4500 incidents in their database, out of between 1 and 5 million flights. So that’s about 1 incident per thousand flights.
They report a rate of incidents of 1.58 per thousand flights in economy seats on flights with first class, .14 per thousand flights in economy seats with no first class, and .31 per thousand flights in first class.

であるわけで,ほっとんど起きていないわけです.つまり倍する対象が非常に小さいのに,それに何をかけてもそんな大げさな話にはなりえない,と思います.語る,と言いますか,騙る,と言いますか.「間違ってはいないけど,あまり意味はない」と言いますか.
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