説得の効果を高めるためには? その①:制御焦点理論の応用

2016/04/20 4:19 に Saki Nakamura が投稿   [ 2016/04/20 4:39 に更新しました ]
近年,説得の効果を高めるメカニズムについて【制御焦点理論】で説明がなされる研究が増えています。
今回は,まず【制御焦点理論】について簡単に説明した後,制御焦点理論に基づく説得研究をいくつか紹介し,そして制御焦点理論のマーケティングへの応用に向けた研究を紹介します。最後に現実場面への応用について考えたいと思います。


◆制御焦点理論:成功を求めて行動する人と失敗をさけて行動する人
制御焦点理論(regulatory-focus theory; Higgins, 1998)によると,人の行動方略を動機づける志向性には,促進焦点と予防焦点の2つがあるといわれています。促進焦点の人は“成功を求めて”行動しようとする人で,理想や進歩を好みます。一方,予防焦点の人は“失敗をしない”ように行動しようとする人で,義務や安全を好みます。この個人の制御焦点と今から取り組む課題の方略が合致していることを“制御適合”といい,この状態だと人は心地よさを感じます。


◆個人の制御焦点と合致した説得だと効果がある
説得研究において,個人の制御焦点傾向と一致した説得の仕方のほうが効果があることが言われています。たとえば,促進焦点の人は「成功」や「獲得」を強調したメッセージの方が説得されやすく,その一方で予防焦点の人は「安全」や「リスクが低い」を強調したメッセージを用いた場合のほうが説得されやすいことが明らかにされています(Cesario, Grant, & Higgins, 2004; Lee & Aaker, 2004)。
さらにメッセージの表現のみならず,説得するときの身振り手振りにおいても制御適合の効果が見られています。Cesario & Higgins (2007)では,説得の文言は全く同じでも,促進焦点の人は熱心な身振り手振りで説得されるほうがより説得力があると感じ,その一方で予防焦点の人は用心深い,落ち着いた感じの身振り手振りで説得されるほうが説得力があると感じることを示しています。

◆制御焦点理論をマーケティングへ応用するには
マーケティング研究においても,制御焦点理論に基づいて,個人の特性とその広告における宣伝文句や視覚的情報との組み合わせの効果について検討がなされています。たとえば,Hirsh, Kang, & Bodenhausen (2012) は,個人の性格特性と広告の宣伝文句の組み合わせについて検討しています。ビックファイブ性格特性に合わせて作成された携帯電話の広告のキャッチコピーを参加者にみせ,どのくらい説得力があるかを判断させる実験を行いました。その結果,外向性が高い人は「世界とつながれる」「世界が楽しくなる」というような宣伝文句の広告のほうが,説得力があると判断されるように,自分の性格と合致した宣伝文句の広告のほうが説得力があると判断されることを明らかにしました。


さらに,Zhang & Yang (2015) の研究では,個人の制御焦点傾向と誰目線の光景なのかという視覚的情報の組み合わせについて検討をしています。実験で用いられた動画は,バスに乗ってパソコンを開いて作業をするというものであるが,その映し方には行為者目線と第3目線の2種類が用意されていました。促進焦点の参加者は行為者目線の動画を見た時のほうが説得力があると判断し,その一方で予防焦点の参加者は第3者目線で映された広告のほうが説得力があると判断していました。


◆制御焦点理論の現実場面への応用のTips
これらの知見を現実場面へ応用するには,説得する相手の個人特性を【見極める力】が必要になるだろう。というのも,個人の制御焦点傾向と一致していれば,説得力が高いと評価される一方で,一致していないとむしろ低いと評価されてしまう可能性がある。つまり,説得する相手の制御焦点傾向を見誤ると逆効果になってしまうのだ。よく閲覧する種類の広告を提示するという行動ターゲッティング広告などには,制御焦点理論の知見を応用できるかもしれない。
(中村早希)


【引用文献】
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