Petty & Cacioppo 特集①  自分に関連のある説得を受ける時には,メッセージに関する思考の数が説得に応じるか否かを決定づける

2016/06/29 19:15 に Saki Nakamura が投稿   [ 2016/07/07 4:49 に更新しました ]
精査可能性モデルは被説得者の態度変容プロセスを説明する主要な理論です。今回は精査可能性モデルの提唱者のPetty & Cacioppo の特集の第1弾として,1979年にJournal of Personality and Social Psychology 誌に掲載された論文について紹介します。この論文は,精査可能性モデルにおいて被説得者の態度を決定づけるのに重要な要素の1つと仮定されている,「メッセージに対する思考の数」の影響を示したものです。

では,論文の序論から見ていきましょう。

自分との関与が大きい説得には,それを受容することに対する抵抗が大きい
説得研究の先駆者であるHovlandの1959年の論文では,実験室実験のほうがフィールドよりも実験のほうが態度を変容させやすいとの説明がなされています。というのも,実験室実験のほうが自分との関与が小さいと考えられるからです。
これに関連して,1960年代の研究では,自分との関与が大きい説得に対しては,説得に対する抵抗が大きいことが言われています(e.g., Miller, 1965; Sherif & Hovland, 1961)。これらの研究の多くは,この結果を社会的判断理論(social judgement theory; Sherif, & Nebergall, 1965)によって説明ができると主張しています。つまり,多かれ少なかれ人には,メッセージを受けた時に,その人にとってメッセージを受け入れがたい領域(抵抗域(latitude of rejection))があり,自己との関与が大きくなるほどこの抵抗域が大きくなるため,自分との関与が大きい説得に対して抵抗を示すというのです。

説得的メッセージが初期態度と一致しているか否かが重要
先ほどの社会的判断理論に基づく説明とは反対に,関与が大きいほど説得の効果が大きいという知見もあります。例えば,Eagly (1967) は,好ましくない情報を受け取った時には,関与が大きい時のほうが小さい時よりも参加者の態度変容が小さく,好ましい情報を受け取った時には関与が大きいときのほうが態度変容が大きくなることを示しました。一方で,Pallak, Mueller, Dollar, & Pallak (1972) では,自分の意見と反対の主張が提示された時には,メッセージに対する抵抗が大きくなる一方で,一致した主張の場合には唱導する方向と同じ方向へ態度が動くことが示されました。
この2つの研究に共通して言えることとして,関与度が大きいと,説得的メッセージに関する思考が多くなるということです。つまり,初期態度と一致している場合にはメッセージに対するポジティブな思考が,一致しない場合にはネガティブな思考が生成されると考えられます。著者らは,自分と説得題材との関与における矛盾した説得の効果の知見を,思考の数が影響する可能性によって説明ができると考え,この考えを実証するために2つの実験を行いました。

実験1  Eagly (1967) と Pallak et al. (1972) の再現 + 説得的メッセージに対する思考の数を測定
参加者は男子大学生24名で,無作為に2 (関与度:高 / 低)×2 (唱導方向: 一致 / 不一致) の4種類の「男女混合の時間における大学の規制」に関するメッセージのうち1つを読みました。関与度は「自分の大学(高関与条件)」の話なのか「他大学(低関与条件)」の話なのかを操作しました。唱導方向は,予備調査に基づき,この規制を緩める(一致条件),もしくは,規制を強める(不一致条件)という内容にすることで,操作をしました。このメッセージを読んだ後,説得的メッセージの内容が良いと思う程度や同意できる程度などを尋ねました。その後,メッセージを読んでいる際に思い浮かんだことをリストアップさせ,書き出した思考をポジティブ,ニュートラル,ネガティブのいずれに当てはまるかを分類させました。

その結果がTable 1です。Eagly (1967) と Pallak et al. (1972) の知見と同じく,自己との関与度が大きい場合には,唱導方向が自身と一致したメッセージであれば,メッセージが唱導する方向と同じ方向の態度を表明するものの,自身の態度と不一致なメッセージであれば,そのメッセージと反対の方向の態度を表明していました。また,メッセージに対する好ましい思考の数は,自己との関与度が大きい場合には,自分の態度と一致したメッセージの時は多かった一方で,自分の態度を不一致なメッセージの時は少なかった。関与度が低い場合には,メッセージの唱導方向によって好ましい思考の数に統計的に有意な差がありませんでした。

※態度得点は標準化された値です。

実験2 説得における自己と問題の関連の効果は,「思考の高まり」と「社会的判断理論」のいずれで説明がつく? 
研究1の結果は,自己との関与による説得の効果は,説得メッセージに対する思考の数の増加によるものだということを示唆していますが,これは社会的判断理論による説明を拡大することでも説明がつきます。というのも,自分と一致したメッセージの場合にはメッセージに対して「同化」が生じ,不一致の場合には「対比」が生じると説明できるからです。
そこで,研究2では,題材と自己との関与による説得の効果が,社会的判断理論を拡大することで説明できるのか,それとも思考の数を重視した認知反応理論に基づく説明できるのかを検討しました。前者であれば,論拠の質の強弱に関係なく,自己関与度が大きい場合には自分と不一致なメッセージの方向へ態度を変容することもなく,好ましい思考も生じないと予測されます。一方で後者は,メッセージを処理する動機を増やしていることになり,論拠の強いメッセージでは弱いものよりも,唱導方向に応じ,好ましい思考が増えると予測されます。

参加者は大学生72名で,無作為に2 (関与度:高 / 低)×2 (論拠の質: 強 / 弱) の4種類の「卒業試験の導入」に関するメッセージのうち1つを読みました。関与度は実験1と同じく「自分の大学(高関与条件)」の話か「他大学(低関与条件)」の話かで操作しました。論拠の質は,強いものは論理的な内容で,弱いものはすぐに反論できるような内容というように操作しました。このメッセージを読んだ後,実験1と同じく説得的メッセージの内容が良いと思う程度や同意できる程度などを尋ねた後,思考リスト課題を行いました。

その結果がTable 2です。関与度が高い場合に,メッセージの論拠の質が強ければ,唱導する方向の態度を表明する一方で,論拠の質が弱い場合には唱導方向と反対の態度を表明していました。さらに,関与度が高い場合には,論拠の質が強い時には弱い時よりも好ましい思考の数が多くなっていました。この結果に加えて,態度と好ましい思考の数には正の相関があることも示されました(論文のTable 3 を直接ご確認ください)。
これらの結果は,題材と自己との関与による説得の効果は,唱導方向が自身の初期態度と一致しているかどうかというよりも,メッセージに対する認知反応が重要であることを示すもので,認知反応理論に基づく説明を支持するものでした。

※態度得点は標準化された値です。

結論:自分との関与がメッセージに対する思考を増やし,この時にメッセージに対する好ましい思考が多ければ説得に応じる
この論文では,まだ精査可能性モデル(elaboration likelihood model)という言葉は出てきていません。しかし,著者らはこの論文の考察部分で,「この研究の結果が,自分との関与が小さい場合には,認知心理学でいう『自動的な処理』が行われ,関与が大きい場合には『統制的な処理』が行われることを示唆する」というように,被説得者の態度変容プロセスには「周辺ルート」と「中心ルート」の2つの経路があるという精査可能性モデルにおける重要な仮定につながることを述べています。


 (中村早希)

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