オンライン調査に際する「努力の最小限化」は心理学研究の結果を歪める

2016/10/06 14:31 に Asako Miura が投稿   [ 2016/10/06 14:32 に更新しました ]
すみません,小ずるい手ですが,自分の論文のマスコミ向けの報道資料を書いたので,それでお茶を濁します.

オンライン調査に際する「努力の最小限化」は心理学研究の結果を歪める
自国民と他国民のイメージ評価を用いた実験的研究

関西学院大学文学部・三浦麻子教授と香港城市大学メディア・コミュニケーション学部・小林哲郎准教授は、オンライン調査に回答する際に協力者が応分の注意資源を割こうとしない行動(努力の最小限化;Satisfice)が心理学の研究結果に及ぼす影響について検討しました。調査冒頭で努力の最小限化をした協力者は、事後の人物イメージ評価において、その人が他国民の場合は、その人の性格に関する情報よりも、その人の国籍に応じたステレオタイプにひきずられた回答をする傾向がありました。しかし、こうした傾向は、努力の最小限化に警告を与え、回答者の行動を修正することである程度解消されることがわかりました。

本研究成果は、2016年9月26日に国際的な電子ジャーナルFrontiers in Psychology誌に掲載されました。

Miura, A., & Kobayashi, T. (2016). Survey Satisficing Inflates Stereotypical Responses in Online Experiment: The Case of Immigration Study. Frontiers in Psychology, 7: 1563. doi: 10.3389/fpsyg.2016.01563

ポイント
オンライン調査での努力の最小限化は他国民のイメージ評価に関する研究結果を「歪めて」いる
具体的には、たとえ当該人物がポジティブな性格だという情報が示されていても、他国民であればよりネガティブなイメージ評価をする
しかし、努力の最小限化傾向に警告を与え、行動が修正されれば、この傾向はある程度解消しうる

1. 研究の背景
近年、心理学をはじめとする社会科学分野において、インターネット、特にウェブを活用して個人から様々なデータを収集する研究が一般的になりつつあります。インターネットを介した研究協力は、幅広い対象から簡便に多くのデータが得られる利点がある一方で、研究者が実施現場に立ち会うことができないため、協力者が調査に際して応分の注意資源を割かない行動(努力の最小限化)が生じやすく、それによるデータの歪みが生じることが危惧されています。三浦教授と小林准教授は、努力の最小限化が心理学研究の結果に及ぼす影響について一連の研究を展開してきましたが(関連する論文(1)~(4))、本研究では、社会心理学の主要なテーマの一つである「ステレオタイプ」研究に努力の最小限化が及ぼす影響とそのメカニズムを明らかにした上で、介入によってそれを修正できるかどうかを検証しました。

2. 研究の内容
研究対象となったのは、オンライン調査会社にモニタ登録をしている成人男女4651名で、ウェブ上で調査に回答しました。調査は2部構成で、前半では図1のような設問への回答を求めて努力の最小限化傾向を測定し、後半では図2のようにある人物の情報を提示して、イメージを評価するように求めました。

以下の設問は、説明文をよく読むと回答する選択肢が指示されているのですが、読み飛ばすと指示以外の選択肢を回答してしまうような内容です。「いいえ」「わからない」と答えた人は努力の最小限化をしており、「はい」と答えた人はしていないことになります。本研究では、前者には再度同じ設問を提示しました。その際、「はい」と答えるようにという指示の部分を赤字で表示して目立たせました。それでも「はい」と答えなかった人を「最小限化」群、2回目で「はい」と答えた人を「行動修正」群、最初から「はい」と答えた人を「優良群」としました。人物のイメージ評価では、提示する国籍と性格に関する情報が操作されました。国籍は中国か日本のいずれか、性格に関する情報はポジティブ、ネガティブ、ニュートラルのいずれかで、合計6種類のうち協力者が見たのは1種類です(図2は中国-ポジティブ)。



われわれが他者のイメージを評価する際、国籍のように何らかの典型的特徴をもつと見なされやすい情報が提示されると、まずはそれに飛びつきやすいことが知られています。こうした特徴を「ステレオタイプ」と言いますが、自国民にはポジティブな、他国民にはネガティブなステレオタイプが持たれやすいことが知られています。しかし、じっくり判断するだけの心の余裕や動機づけを持っていれば、それだけでイメージを決めつけることはなく、その後に提示される個人の性格に関する情報に応じて修正が行われます。しかし、これには時間をかけて情報を吟味する必要があるため、認知的な負荷がかかります。努力の最小限化をする人は、この吟味をせずに回答してしまうので、例えば「ポジティブな性格の他国民」に対しても、ネガティブなイメージ評価をしてしまうと予測されます。

図3は研究1の結果です。ある人物の性格に関する情報について、国籍ステレオタイプと一致するもの(日本であればポジティブ、中国であればネガティブ)が提示される場合には、イメージ評価のための認知的な負荷が低いため、優良群と最小限化群に違いは見られません。しかし、他国民だという情報が提示された上で、ステレオタイプと一致しない情報が提示された場合(中国国籍でポジティブな性格)には、最小限化群はその情報にあまり反応せず、ステレオタイプに合致した、すなわちよりネガティブなイメージが維持されやすいことが示されました。人物情報の閲覧時間は最小限化群でもっとも短く、かれらの回答への動機づけの低さが情報処理の浅さにつながっていることが示唆されます。一方で、行動修正群の回答傾向は優良群にかなり近く、研究実施者が努力の最小限化に気付いていることをフィードバックすれば、いったん努力の最小限化をした人を、適切な行動へと仕向けることが可能であることが示されました。研究2は、別の協力者を対象として、提示する人物情報を少し修正した内容で実施しましたが、ほぼ同様の傾向が再現されました。


3. 結論
この研究から、オンライン調査で努力の最小限化をする人は、たとえ当該人物がポジティブな性格だという情報が示されていても、他国民の場合はよりネガティブなイメージ評価をする傾向があることがわかりました。きちんと時間をかけた吟味を経た回答であればそうはならないことは、最小限化をしなかった人の結果を見れば明らかです。つまり、努力の最小限化は他国民のイメージ評価に関する研究結果を「歪めて」いることになります。とはいえ、努力の最小限化を検出し、それに警告を発すれば、この傾向はある程度矯正しうることがわかりました。研究者には、努力の最小限化が生じやすいというオンライン調査の現実を直視し、研究知見の歪みを回避するために、協力者に十全の努力を求めるための積極的な介入を行うことが求められます。

関連する論文
1) 三浦麻子・小林哲郎 (2016b; in press). オンライン調査におけるSatisficeを検出する技法:大学生サンプルを用いた検討 社会心理学研究, 32(2). doi: 10.14966/jssp.0932
2) 三浦麻子・小林哲郎 (2016a).  オンライン調査における努力の最小限化(Satisfice)傾向の比較:IMC 違反率を指標として メディア・情報・コミュニケーション研究, 1, 27-42.
3) 三浦麻子・小林哲郎 (2015b). オンライン調査モニタのSatisficeはいかに実証的知見を毀損するか. 社会心理学研究, 31(2), 120-127. doi: 10.14966/jssp.31.2_120
4) 三浦麻子・小林哲郎 (2015a). オンライン調査モニタのSatisficeに関する実験的研究 社会心理学研究, 31(1), 1-12. doi: 10.14966/jssp.31.1_1
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