歳をとると不健康な「悪いお手本」にも目を向ける

2017/01/10 23:35 に Megumi Tabuchi が投稿   [ 2017/01/11 19:36 に更新しました ]

 人間の行動方略は,加齢に伴ってどう変化していくのでしょう。「歳をとって守りが固くなった」という台詞はよく聞かれますが,本当に「攻めから守りに転じる」加齢変化はあるのでしょうか。今回は,加齢変化を直接みているわけではないものの,「いいお手本をみてそれに近づこうとするのか,悪いお手本をみてそれを回避しようとするのか」の行動方略について,高齢者と若者を比較した研究を紹介します。

Lockwood, Chasteen, & Wong (2005)Lockwoodはわれらが,というより尾崎先生が日本語訳を作ってくださっている「接近回避尺度」を作ったお人)は,人の健康行動が何によって動機付けられるのかが,若者と高齢者で異なるのではないかと考えました。若者はこれからいろいろと「獲得」していく未来を見ており,自分自身が健康を次第に失ってよぼよぼになっていくことはあまり考えないので,健康で元気な「よいお手本」の人を目指そうとする,つまり促進的な行動方略を好むのではないか,と予想しました。一方,高齢になってくると自分も不健康な状態を経験していたり,あるいは周囲の同世代の不健康状態や死を経験したりして,自分が死に近づく未来が現実のものとしてよりはっきり見えているので,「悪いお手本」にも動機付けられるようになるのではないか,と考えました。

まず研究1では,72名の若者(平均20.82±2.03歳)と68名の高齢者(平均65.69±4.14歳)を対象に調査を行いました。「誰かがあなたの日々の健康行動を変えようと助言している,と想像してみてください。すごく健康的な人が『よいお手本』として助言しようとする場合もあるでしょうし,体調がすごく悪い人が『悪いお手本』としてあなたに注意しようとすることもあるでしょう。実体験でも空想でもかまいません,想像してください。そしてどんな風に助言してくるか詳しく書いてください。」と教示しました。その結果,高齢者では50.77%が『悪い見本』の例を報告したのに対し,若者では『悪い見本』を報告したのは32.86%でした。

 そこで次の研究では,61名の若者(19.68±3.91歳)と45名の高齢者(67.67±3.91歳)を対象に調査を行い,各個人の制御焦点傾向と,「よいお手本(めっちゃスリムでスタイルいい人,めっちゃ健康な人等)」,「悪いお手本(めっちゃ太った人,病気持ちの人,等)」の6種類ずつの人にそれぞれ健康改善を進められたらどの程度やる気になるか,を測定しました。まず,促進も予防も若者の方が高く,かつ促進の方が予防よりも高いという傾向は,若者の方が強い結果となりました(Figure1)。
 そして,「どちらのお手本によりやる気になるか」を比較したところ,若者は「よいお手本」の人にすすめられたほうがやる気になるけど,高齢者では「よいお手本」でも「悪いお手本」でも同じぐらいやる気になる,ということが分かりました(Figure3)。なお,高齢者だけで調査を行ったところ,促進的な人は「よいお手本」,予防的な人は「悪いお手本」でよりやる気になる,という結果になりました。

 もし行動方略としての制御焦点傾向に加齢変化があるのだとすれば,リスクや失敗の経験や予測が人生の長さに比例して増え,それが身体の衰えと相俟って,促進的な方略を容易にとらなくなる,ということかもしれません。


(文献)

Lockwood, P., Chasteen, A. L., & Wong, C (2005) Age and Regulatory Focus DeterminePreferences for Health-Related Role Models. Psychology & Aging, 20(3), 376–389.

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