制御焦点傾向はどう発達,変化する?

2017/02/01 6:23 に Megumi Tabuchi が投稿   [ 2017/02/01 6:29 に更新しました ]

人は目標を達成するために2種類の行動方略をとるとする制御焦点理論ですが,長い人生の中でどのように変化していくものなのでしょうか。ここでは,“Motivation and self-regulation across the life span ”という本の中でHigginsらが発達的観点から制御焦点理論を論じている章を紹介します。

(書誌情報)

Higgins & Silberman (1998) Development of regulatory focus: Promotion and prevention as ways of living. Heckhausen, Jutta (Ed); Dweck, Carol S. (Ed). (1998). Motivation and self-regulation acrossthe life span, (pp. 78-113).

制御焦点は,人間が社会化の過程で獲得していく自己制御のための行動方略の一つです。人は外界の刺激に対して反応する際に,自己をどういう方向にコントロールするのかの方略を獲得していくのです。促進焦点は利得に焦点化した自己制御傾向。「良い結果」に焦点を当て,それを得ること(たとえば“褒められる”こと)を快として追求するとともに,良い結果を得られないこと(たとえば“褒められない”こと)を不快として避けようとします。予防焦点は損失に焦点化した自己制御傾向。損失の存在を回避するように行動を制御します。否定的な結果が起きないこと(たとえば“叱られない”こと)を追求し,否定的な結果が起きること(たとえば“叱られる”こと)を避けようとします。

社会化の過程で自己制御が発達するためには,周囲の重要な人物との関係が意味を持ちます(このあたり,発達でよくあるBowlby的な考え方と同じ。)例えば愛着の形成などと同じように,幼児期の制御焦点傾向の形成も,重要他者(主たる養育者,研究の多くは母親に着目)との相互作用に影響を受けます。何かあったときの行動方略がそのまま母子で類似する,というよりも,子どもの行動に対して母親が抱く感情と母親の行動を子どもが学習し,相互作用の中で母親と同じような感情を抱くようになるので,行動方略も似てくる,と考えられます。

Table3.2は,促進的・予防的な母親が子どもに対してどのような反応をし,そのときどのような感情を抱くかについてまとめたものです。促進的な母親は,子どもの「良い行動」があるかないかに焦点を当て,あれば満足してご褒美を与え,なければ落胆してご褒美を与えない,という行動をとります。なので,子どもは母親からご褒美(=利益)を得ようと行動するので,促進的な自己制御になると考えられます。予防的な母親は,子どもの「悪い行動」があるかないかに焦点を当て,なければ安堵して何も働きかけず,あれば動揺して罰を与える,という行動をとります。なので,子どもは母親からの罰(=リスク)を避けようと行動するので,予防的な自己制御になると考えられます。Higgins16歳未満の子どもと母親を対象に,子どもの行動に対してどのような感情を抱くかを調べたところ,子どもとのやり取りの中で母親が促進焦点的な感情(よい行動に対する満足感)をより感じている場合は,子どもも促進焦点的な感情をより感じており(r=.28),母親が予防焦点的な感情(悪い行動に対する動揺)を経験していると,子どもも予防焦点的な感情を感じている(r=.45)ことが分かりました。

さて,自己制御の方略が形成し終わった,幼児期以降は制御焦点傾向がどう変化するのでしょうか。制御焦点傾向が人生の中で人の行動の決定と,そのときの感情に大きな影響を与えるのは,中高年期になってからも同様です。例えば中高齢期になると身体的変化によって健康的なポジティブな状態を保つことが難しくなりますが,そうした変化に対してどんな感情を抱くのか,どう行動するのかに,制御焦点傾向は大きく影響します。促進的な人は「良いものの獲得の有無」に焦点を当てるので,身体的な魅力(外見的魅力や身体的な優れた能力)の変化に対して喜んだり落胆したりします。一方,予防的な人は「悪いものからの回避」に焦点を当てるので,健康の悪化(病気になる,怪我をするなど)に対して動揺したり安堵したりします(Brendl & Higgins, 1995)

 この章では,社会化の過程で獲得された制御焦点傾向を,長期的に変化のない,かなり根強い性格特性的な部分として捉えています。しかし,この制御焦点傾向が長い人生の中で変化(発達?)していく可能性も十分にあるので,さらなる研究の発展に期待します。

…ということで,この章では中高年期に制御焦点傾向がどうなっていくのかについては詳しい議論はないのですが,今回のFAX調査で幅広い年齢層に制御焦点傾向を調査できたので,前回の学生データと合わせて単純に年齢との相関をみてみました。すると,

 促進焦点が,特に女性では高齢のほうが若年よりも弱くなるのではないか,という傾向が認められました。高齢になると予防傾向が強くなってくるわけではなく,むしろ予防傾向は親との相互作用の中で発達したのちあまり変化がなく,身体的変化にあわせて促進傾向が変化する,のかもしれません。制御焦点傾向の変化や中年期以降の親子類似性については,まだまだ謎が多いです。
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