高齢期の自己制御理論あれこれ

2017/02/08 7:01 に Megumi Tabuchi が投稿   [ 2017/02/08 7:07 に更新しました ]

 Higginsさんたちの制御焦点理論では,幼児期の親子の類似性について言及しているものの,その後の加齢変化や中高年期の親子の関連については著書に展望が書かれているのみで,実証的な検討はなされていません。では,高齢期の自己制御を扱った他の理論ではどのように考えられているのでしょうか?ここでは,SOC理論とLife-span theory of controlを紹介します。

(書誌情報)
Heckhausen, & Schulz (1998) Developmental Regulation in Adulthood: Selection and Compensation via Primary and Secondary Control. Heckhausen, Jutta (Ed); Dweck, Carol S. (Ed). (1998). Motivation and self-regulation across the life span , (pp. 50-77).

SOC理論とは, Baltes(1984)が提唱した,高齢期の自己制御方略に関する理論です。若年の頃と違って身体的・認知的に低下を経験する高齢期において,自らの目標を調整しつつ,今ある身体的・認知的資源を使って少しでも喪失の前の状態に近づこうとする方略を指します。SOCとは,喪失に基づく目標の選択(Lossbased Selection),資源の最適化(Optimization),そして補償(Compensation)のことです。「喪失に基づく目標の選択」とは,若い頃には可能であったことが上手くできなくなったときに,若い頃よりも目標を下げる行為を指します。「資源の最適化」とは,選んだ目標に対して,自分の持っている時間や身体的能力といった資源を効率よく割り振ることを指します。そして「補償」とは,他者からの助けを利用したり補助的な機器や技術を利用したりすることを指します。たとえば,ピアニストが高齢になると,指の力やスピードが必要な高難度の曲を選ばず,無理のない曲を選ぶようになり(「喪失に基づく目標の選択」),身体的に無理のない曲を筋力ではなく表現力で完成度をカバーするようになり(「資源の最適化」),椅子やペダルの補助器具を使ったり他者の助けを借りて演奏をするようになったりします(「補償」)。こうした方略をうまく用いることで,資源を喪失してくことによってもたされる損失を最小限にとどめることができれば,目標を達成することや幸福感が維持されると考えられています。

 Life-span theory of control理論はBaltes(1984)の理論を基に,Heckhausen(1995)が提唱したモデルです。Life-span theory of control理論では,SOC理論の「目標を実現させるための方略」を1次コントロールと呼び,資源の喪失がきわめて大きく,以前の状態に近づくのが困難であるときに,その状態をポジティブに捉えなおしたり,他の人と比較してまだましであると考えたり,目標をあきらめて自分を(無理やり)納得させるという方略を2次コントロールと呼びます。どうしても目標達成が難しいと自分で判断したときに,その状況を認知的に処理することで,幸福感を維持しようとする方略です。Figure2.1 に,1次コントロールと2次コントロールの加齢変化を示しています。高齢期になるに従い,目標の捕らえなおしや考え直しによって自己制御を行う2次コントロールが高くなる,とされています。

Life-span theory of control を提唱したHeckhausenらはこの章の中で,「高齢期はloss-orientedでありgain-oriented の目標が若者と比較して少なくなってくる。この現象をHigginsらの理論に照らし合わせると,ポジティブアウトカムからネガティブアウトカムに注目するように加齢変化するのではないか,つまり,良いものに反応する促進傾向から,悪いものに反応する予防傾向に変化するのではないか」と書いています。中高年期の親子で予防的側面のみ関連するのは,幼児期に形成された予防焦点傾向がめったなことでは変化しないか,もしくは中年期以降は互いに予防的な側面に着目するようになるので,親子の相互作用の中で予防焦点傾向のみがより類似してくるという可能性もあるのかもしれません。そして,「加齢に伴いする増加してくる補償方略」が「理想や目標を下げる」ことであるとするSOC理論やLife-span theory of control理論に基づけば,「促進が減り予防が増える」というよりも,促進的な方略のみを特に調整して変動させる,ということになるのかもしれません。

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