高齢者は「高齢者」が嫌い,でも「同世代」は好き!

2016/04/25 22:20 に Megumi Tabuchi が投稿   [ 2016/04/25 22:22 に更新しました ]

 高齢者さんを対象にした講習会や講演会などで,「高齢者の~」というフレーズをつけると,ちょっとお客さんが減ってしまう,という話をきいたことがあります。「高齢者」という言葉自体がネガティブなイメージで,嫌われているからでしょうか?高齢の人を表す言葉には,「お年寄り」「老人」などなど,いくつかありますが,では一体どの言葉を使えばいいのでしょうか?とある講習会の世話役さんが,「これだ!」と思ってちょっとオシャレに「シニア」という言葉を使ったところ,「はよ死にや,っちゅうことか?」と怒られた,という笑い話もあります。「要するに,みなさん,ご自身を高齢者やと思ってはらへんのでしょうな」とその方はおっしゃっていました。今回は,そんな「高齢者の年齢アイデンティティ」に注目した研究をご紹介いたします。

多くの高齢者は,「高齢」という「年齢」に対して,「喪失」や「低下」,「減退」といったネガティブなイメージを抱いていることが,Weiss, D. & Lang, F. R. (2012). The Two Faces of Age Identity.という論文で報告されています。「自分自身を高齢者だと思わない」という行動の背景には,「年齢アイデンティティの自己防衛機能」がある,つまり,「自分はまだまだ若い」と思うことで,「高齢」のネガティブイメージの根源となる「老」や「死」に対する不安から自分自身を守っている,という考え方があります。Weiss, D., & Lang, F. R. (2012) “They” AreOld But “I” Feel Younger: Age-Group Dissociation as a Self-Protective Strategyin Old Age.という論文では,「高齢」という「年齢」に対してよりネガティブな印象を抱いている人ほど,より自分を若く見積もる傾向があり,自分と同じ年齢集団への同一化レベルが低い,つまり「自分は違う!」と思っていることが報告されています。

 

しかし,やはり実際には身体的・認知的機能の低下は避けられず起こるわけで,そんな中で高齢者はどうやって自己イメージを保っていくのでしょうか。先ほど挙げたWeiss, D. & Lang, F. R. (2012). The Two Faces of Age Identity.という論文では,「年齢アイデンティティ」と同時に,「世代アイデンティティ」というものに着目しています。この論文では,さきほども紹介したとおり,高齢者は「年齢」に対してはネガティブなイメージを抱いている一方,「世代」に対してはポジティブなイメージが強く,同一化の強度も強いことが報告されています。つまり,「高齢者」は嫌いで「自分も高齢者の仲間入り」なんて絶対嫌だけれど,「自分と同じ時代を生きてきた同世代の人たち」は大好きで,「自分もその仲間!」と思うことはとても嬉しい,ということです。Weissらは,このポジティブな「世代アイデンティティ」が,ネガティブになっていく「年齢アイデンティティ」を補う機能を果たしている,と考えています。

そういえば,高齢者さん同士がおしゃべりしている中で,「わたしらの世代は,わたしらの時代は~」というフレーズをよく耳にします。Weissらの理論から考えれば,「同じ時代を生きてきた仲間」の意識は,高齢になればなるほど強くなる,ということなのかもしれません。


さて,この「補償機能」はたしかに高齢者の重要な適応能力の一つなのかもしれませんが,この機能が「世代間の隔たり」を作っている可能性もあります。「自分と同じ時代を生きてきた同世代の人たち」に対するポジティブな仲間意識が強くなればなるほど,「違う世代」に対するネガティブなイメージ,「よそ者」の感覚も強くなってしまうかもしれません。異なる世代間での相互作用の難しさが,このあたりからも生まれている可能性もあります。(田渕恵)


【引用文献】

Weiss, D., & Lang, F. R. (2012) “They” Are OldBut “I” Feel Younger: Age-Group Dissociation as a Self-Protective Strategy inOld Age. Psychology and Aging. 27(1), 153-163. Doi: 10.1037/a0024887

・Weiss, D. & Lang, F. R. (2012). The Two Faces of Age Identity. The Journal of Gerontopsychology and Geriatric Psychiatry. 25 (1), 2012, 5–14 DOI 10.1024/1662-9647/a000050







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