カロリー制限すると長生きなのか?

2016/05/23 22:31 に Megumi Tabuchi が投稿   [ 2016/05/23 22:32 に更新しました ]
 100歳以上の方の多くが,太平洋戦争前後に「カロリー制限(食べるものがない)状態」を経験したお話される,と百寿者研究者からうかがいました。いくら裕福な家柄だったとしても物がない時代なので,ほぼ皆さんがある時期には食事に不自由していたようです。この「中年期までにカロリー制限をする」ということは,長寿と何か関係しているのでしょうか?

 「カロリー制限が長寿をもたらすのか」は,長寿研究の中でしばしば頭をもたげてくる問いのようです。老研名誉所員の柴田博先生によると,この「カロリー制限理論」には「まやかし」が含まれているので,日本人が一様に信じてはいけない,とのこと。そもそも「カロリー制限が長寿をもたらすのか」については,ラットを用いた実験が1930年に始まりました。日本人の平均寿命が30歳代の後半に低迷していた20世紀の初め,アメリカの平均寿命は50歳代を越えていったのですが,この平均寿命が延びた原因は,動物性タンパク質や脂肪の摂取の増加であったそうです。しかしこの背景が逆に栄養過剰摂取を生み出し,動脈硬化性心臓病の急増を生み出しました。カロリー制限と長寿の関係に関する実験がアメリカで始まったのは,こうした時代背景によるものだったそうです。ラットを用いた実験では,たしかに好き勝手食事をしているラットよりも,カロリー制限をしたラットの方が約40%長生きした,という結果が出たそうです。しかし,この結果をそのまま人間に応用してもいいのでしょうか?

そこで,人間により近い生き物で実験しようということで,おサルさんのカロリー制限実験が始まりました。Scienceに掲載されたColman(2009)Caloric restriction delays disease onset and mortality in rhesusmonkeys.という論文では,Wisconsin National Primate Research Center (WNPRC)で行われたサルの実験結果を報告しています。研究チームは,7-14歳の成人したアカゲザルに30%の食事制限を行い,20年にわたり食事制限のないグループと比較しました。その結果,食事制限をしたサルの方が,がんや心臓病などの発症が少なく,見た目も若く(Figure1),寿命が延びたとのことです。この研究によって,小霊長類においても「カロリー制限で寿命が延びること」が証明されました。

Fig. 1. Animal appearancein old age. (A and B) Photographs of a typical control animal at 27.6 years of age (about the average life span). (C and D) Photographs of an age-matched animal on CR.


ところが,これと全く反対の結果を出したImpact of caloric restriction on health and survival in rhesusmonkeys from the NIA study.という論文が,Mattisonら(2012)によってNatureに報告されました。彼らによれば,20年間以上アカゲザルに30%の食事制限を行ったところ,食事制限のないグループのサルと比べてほぼ寿命が同じだった,と報告しています。食事制限を始めたサルは,多少の健康状態の改善や加齢による病気の発症率の低下(Figure3)が認められましたが,いずれにしても個体差が大きく,総じて見れば劇的な変化は認められませんでした。



 この結果の違いについてMattisonら(2012)は,そもそもサルに与えていた「餌の違い」などを挙げています。例えば,Colman(2009)の研究では,主食をコーンスタートやショ糖にしており,ショ糖成分が30%近く含まれる餌を使用していました。一方Mattisonら(2012)の研究では,小麦やとうもろこしをすりつぶした天然成分がベースとなった餌を使用しており,糖成分が5%以下とかなり低めでした。ショ糖の過剰摂取は,高脂肪症や糖尿病などの原因になります。また,天然成分がベースになった食事には,ショ糖以外の様々な健康に良い栄養分が含まれています。こうした実験環境のそもそもの違いから,全く異なる結果が導き出されています。

 結局,カロリーの高低よりも「バランスのとれた食事」が長寿につながる,という結論に落ち着きつつあるようです。「長寿には○○がいい!」という謳い文句をテレビや本などでよく見かけますが,一つの論文の結果に飛びつきすぎると落とし穴がありそうです。


(引用文献)

・Colman, R. J., Anderson, R. M., Johnson, S. C., Kastman, E. K., Kosmatka, K. J., Beasley, T. M., Allison, D. B., Cruzen, C., Simmons, H. A., Kemnitz, J. W., & Weindruch, R. (2009). Caloric restriction delays disease onset and mortality in resusmonkeys. Science 325, 201–204.

Mattison, J. A., Roth, G. S., Beasley, T. M., Tilmont, E. M., Handy, A. M., Herbert, R. L., Longo, D. L.,Allison, D. B., Young, J. E., Bryant, M., Barnard, D., Ward, W. F., Qi1, E., Ingram, D. K., & Cabo, R. (2012). Impact of caloric restriction on health and survival inrhesus monkeys from the NIA study. Nature, 489, 318-322.


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