すぐに飛んでくPromotion focus,梃子でも動かないPrevention focus

2016/06/06 21:00 に Megumi Tabuchi が投稿   [ 2016/06/06 21:04 に更新しました ]
こちらの記事でもご紹介があった通り,制御焦点理論では,人間には促進焦点(Promotion focus)と予防焦点(Prevention focus)2つの志向性があるとしています。促進焦点は「利益を求める」傾向,予防焦点は「危険を避ける」傾向です。ここでは,こうした制御焦点の傾向が,他者との関係の中でどのような戦略として表れるのかをみてみることにします。

 促進焦点傾向が強い場合は,自分が利益を得られる状況を嗅ぎ付けて,すぐに「びゅーん」と飛んでいく,つまり行動をすぐに変えます。一方,予防焦点傾向が強い場合は,危険な目にあうことを真っ先に避けたいので,一度うまくいくとその行動をなかなか変えません。このことを,「ゲームの成績でズルをする」という,倫理的によろしくない行動でもやってしまう,というのを示したのがZhang, Cornwell, & Higgins (2014)の研究です。Zhangらは,まず実験対象者にクイズ課題をさせた後,ちょっとだけいい成績をフィードバックし,この嘘の成績を受け入れるか否かを選択させました。さらにその後,別の課題をさせてその成績を報告させ,どのぐらい「ズルをするか」を調べました。すると,結果は以下のようになりました(Figure1)


 グラフは,2回目の課題成績をどの程度高めに,つまり,ズルをしてちょっといい成績を報告しているか,を示しています。結果から,予防焦点傾向が強い人において,1回目でズルをして嘘のいい成績を受け入れた人は,2回目もズルをしていい成績を報告していることが分かります。「ズルをして得をする」という戦略自体は,「自己利益は大きいが,倫理的な問題行動なのでばれたときのリスクも大きい」はずなので,一見,促進焦点傾向の強い場合に強く見られそうな行動です。しかし,Zhangらの研究の場合は,1回目のズルがばれて怒られる,という状況ではないので,「うまくいった行動を変えない」という方の動機が,予防焦点傾向の人には強く効いたようです。


 また,Doorn, Kleef, & Pligt (2014)は,促進焦点傾向が強い場合は「行動を変える」ように動機付けられるのが得意,予防焦点傾向が強いと苦手,というのを教育的な場面に応用する実験を行っています。彼らは,参加者に単語記憶テストを行った後,「先生役」が怒り口調orにこにこ口調でテストのヒントを教えてくれる条件を設定し,その1週間後に行った成績の違いを比較しました。その結果,促進焦点傾向の強い人は,怒り口調でがんがん教えられた方が,成績がよかったようです。一方,予防焦点傾向の強い人は怒り口調よりもにこにこ口調の方が,成績が良かったという結果に。Doornらによれば,他者の「怒り」表出はそもそも相手に対する「行動を変えろ!」という最大のサインであり,「利益のために行動を変える」のが得意な促進焦点傾向の人は「うをー!」と頑張る動機付けになった,とのことです。しかし,「行動を変える」のが苦手な予防焦点傾向の人には逆影響だった,ということです。


Zhangらの研究もDoornらの研究も,最終的にはプライミングで促進・予防傾向を操作していることから,一時的な実験操作によってこうした戦略が変わる,という点も,近年の制御焦点研究の興味深いところです。


(引用文献)

Zhang, S., Cornwell, J. F. M., & Higgins, E. T. (2014) Repeatingthe Past: Prevention Focus Motivates Repetition, Even for Unethical Decisions. Psychological Science, 25(1) 179–187. DOI: 10.1177/0956797613502363

・Doorn, E. A., Kleef, G. A., & Pligt, J. (2014) How Instructors' Emotional Expressions Shape Students' LearningPerformance. Journal of Experimental Psychology: General, 143(3), 980-984. doi: 10.1037/a0035226


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