「自分」と距離を置くと賢い判断ができる

2016/06/29 7:37 に Megumi Tabuchi が投稿   [ 2016/06/29 7:39 に更新しました ]

 何か問題が起こったとき,他人事だと思うと冷静に賢い意見が言えるのに,自分のこととなるととんでもない判断をしてしまう,というのは誰しもあることかと思います。知恵者で有名な,かのソロモンでさえ,自分の身内の問題になると賢い判断ができなかった,といいます。ここでは,問題解決の際に「賢い考え方」をするためのコツとして,「自分」と距離を置くことを取り上げている研究をご紹介します。

Kross & Grossmann(2011)は実験によって,「自分」と距離を置いたほうがより理論的で視野の広い問題解決案を提案できることを明らかにしました。実験参加者を,解決すべき問題(例:不景気な社会における就職難の問題など)について,「自分が今まさに直面している問題として考える」群と,「自分とはちょっと距離を置いて考える」群に分けて,「どうすればいいと思うか」の意見を述べさせたところ,「自分とはちょっと距離を置いて考える」群の人たちの方が論理的で知的な思考を行っていたことを報告しています。

彼らは課題や操作方法を変えながら実験を重ね,Grossmann, I. & Kross, E. (2014)では,「私」という言葉をたくさん使って「自分の問題」について考えると理論的思考ができにくくなる一方で,「自分の名前」を使って「自分の問題」について考えると多少理論的思考ができるようになることを報告しています。

さらにGrossmann,I. & Kross, E. (2014)では,「自分」と距離を置くことの効果が加齢にともなって強くなっていく,つまり高齢になればなるほどより『自分』から距離を置くことで賢く物事を判断したり理論的思考ができたりするのではないかと考え,同様の手続きで若者と高齢者を対象に実験を行いました。その結果,「自分」と距離を置くことの効果は高齢者でも若者でもさして変わりはなく,どちらの年齢群でもやはり「自分」から距離を置いた思考の方がより理論的であることが明らかになりました。「歳をとると賢くなる」とはよく言われますが,歳をとっても「自分」に焦点を当てた思考をしているとやっぱり理論的な判断を下すことが難しくなる,ということです。むしろ,加齢に伴って身体的に「視野は狭くなる」ので,「自分」に焦点化した思考をしやすくなる可能性も高いです。一方で問題を解決してきた経験値は加齢に伴って明らかに上がりますので,そういった部分が「自分」に焦点化してしまう思考を補っているのかもしれません。

ところで,自分の中で何か物事を考えるときに,自分の思考の中に「自分が二人(ないしは複数人)いる」という人がいますが,そうやって「ちょっと距離を置いた自分」を設定していることでより論理的な「賢い考え方」ができるようになっているのかもしれません。

 

(引用文献)

Grossmann, I. & Kross, E. (2014). ExploringSolomon’s Paradox: Self-Distancing Eliminates the Self-Other Asymmetry in WiseReasoning About Close Relationships in Younger and Older Adults. Psychological Science, 25(8) 15711580. DOI:10.1177/0956797614535400

Kross, E., & Grossmann, I. (2011). Boosting Wisdom: Distance from the Self Enhances WiseReasoning, Attitudes, and Behavior. Journal of Experimental Psychology. DOI:10.1037/a0024158

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