「感謝」の役割

2016/07/11 22:56 に Megumi Tabuchi が投稿   [ 2016/07/11 22:58 に更新しました ]
 わたしたちは,人から親切にしてもらえるとそれに対して「感謝」という気持ちを抱きます。そして,この「感謝」という気持ちが「お返しをしなければ」という気持ちを生じさせます。こうして,わたしたちは誰かを支えたり支えられたり,という「利他行動」の連鎖の中が起こっていくのです。ここでは,この「感謝」という気持ちが持つ役割について考えます。
 
 「感謝」が社会の中での「利他行動」の連鎖にとって重要な役割を果たしている,ということは,例えばBartlett & DeSteno (2006)研究で示されています。彼らは実験によって,「誰かに親切にされると「感謝」の気持ちを抱き,そしてその気持ちが原動力となって,直接親切にしてもらった相手以外の人の第3者にも,親切な行動をとることを示しています。彼らは実験の中で,まず参加者に「モニターに映った文字の羅列が単語になっているか」を判断するという,かなり面倒くさい課題をたくさんしてもらいます。そして,「サクラが参加者に親切にする条件」では,課題が終わって待っているときにモニターが突然真っ黒になって消えてしまいます。すると実験者が入ってきて,「PCが壊れちゃったみたい,修理の人を呼ぶから,直ったらもう一回最初からこの課題やってね」といいます。実験者が行ってしまったあと,サクラが一生懸命様子を調べ,モニターの電源が切れただけだ,ということを発見してくれ,課題をやり直さなくてよくなる,という状況になります。統制群では,サクラと同じぐらいだけお話はするのですが,「サクラに助けられる」という状況は一切起こりません。その後,そのサクラと,全く関係ない第3者が,実験後に「質問紙に回答して!時間が許す限り,好きなだけでいいから」とお願いし,参加者がやってくれた時間を測定しました。その結果,参加者は,親切にしてくれた相手に対してだけではなく,関係ない第3者に対しても,「助けられて感謝をした」方がたくさん親切行動を行っていました。

「感謝」は,直接相手に,あるいは関係ないけれど誰かにお返しをせねば,という感情を喚起させ促進させる原動力となっています。また,「感謝」は他者との関係で「利益を得よう」という「焦り」の感情を抑制することも示されています。DeSteno, Dickens & Lerner(2014)の研究では,「感謝をする」という感情が,「早く利益を得て満足したい!」という焦りを抑えて,「長期的にみて自分にメリットがあるから今はちょっと我慢する」行動を促進することを明らかにしています。彼らは,実験参加者を3群に分けて,それぞれ「感謝を感じた出来事」,「幸せを感じた出来事」,「普段通りの日常生活」をそれぞれ思い出し,5分間詳しく記述するよう指示し,「感謝」の感情を操作しました。その上で,「今少額(11ドル~80ドル)を受け取るか,今日から1週間後~6か月後に多額(25ドル~85ドル)を受け取るか」について回答させる,いわゆる「遅延価値割引」が起こっているかを調べました。その結果,感謝条件の人は,他の条件と比較して有意に遅延価値割引をしていなかった,という結果になりました。

 「感謝」は「相手に自分の資源を分け与える」という気持ちを促進し,「相手から資源を今すぐ頂戴する」という気持ちを抑制する,ということです。つまり,気持ちに余裕が出る,ということかもしれません。

【引用文献】
・Bartlett, M. Y. & DeSteno, D. (2006) Gratitude andProsocial Behavior: Helping When It Costs You. Psychological Science,17(4), 319-325 doi: 10.1111/j.1467-9280.2006.01705.x
・DeSteno, D., Dickens, Y. L., & Lerner, J. S. (2014) Gratitude: A Tool for Reducing EconomicImpatience Psychological Science, 25(6), 1262-1267.doi: 10.1177/0956797614529979

Comments