その表情,怒ってる?笑ってる?

2016/07/27 1:09 に Megumi Tabuchi が投稿   [ 2016/07/27 20:32 に更新しました ]
 「怒っている」顔と「笑っている」顔は全く違うように思いますが,相手が曖昧な表情を浮かべている場合は,相手が「怒っている」のか「笑っている」のか,表情だけで判断するのは意外と難しいもの。私たちはそういう場合,会話の流れなどのその場の状況を加味しながら「相手の感情」を推測するわけですが,そうした曖昧表情の判断にゆがみが生じている場合があります。ここでは,相手の表情判断と感情認識のゆがみを修正する,あるいはゆがみをかけることが,その人の行動や感情そのものに影響があることを示した論文を紹介します。
Penton-Voak,I. S., Thomas, J., Gage, S. H., McMurran, M., McDonald, S., & Munafo, M. R.(2013)の研究では,攻撃的な行動の多い少年たちに,曖昧表情を判断させるトレーニングを行うことで,感情の安定や攻撃行動の減少を目指しました。彼らはまず,一般人を対象に,実験群と統制群に分けて,曖昧表情の刺激が「怒り顔」か「幸せ顔」かを判断させる課題を行いました。次に,実験群では,「トレーニング」として,「怒り顔」と「幸せ顔」の境界線上の表情を「幸せ顔」であるとするフィードバックつきの課題を,統制群では先ほどと同じ回答をしていれば全て「正解」とするフィードバックつきの課題を行いました。そして,課題後の感情状態を測定したところ,実験群のほうが「怒り」感情が有意に低くなっているという結果となりました。

この実験をベースに,彼らは非行少年たちを対象に,このトレーニングの効果を検証しました。5日間継続的にトレーニングを行い,その後2週間,毎日「攻撃的な行動」がどの程度表れたかを,少年たち本人とスタッフが評価する,というフォローアップを行いました。その結果,トレーニングをした群の方が,1週間後,2週間後も,攻撃行動が起こりにくかった,ということです。



 この研究は,攻撃的な感情や行動が抑制できない「衝動制御障害」がある若者のための,「攻撃行動を減少させるための感情認知トレーニングの効果」という観点なので,曖昧表情を「怒っている」と判断してしまう「ゆがみ」を直す,というお話になるわけです。(つまり,別にガンとばしてるわけでもなくたまたま無表情で視線が合うだけで「何見てんだコラ」となってしまう「ゆがみ」を直す,ということ)。一方,「怒り」の表情が相手の「攻撃行動」を予測させるサインなのだとしたら,逆のゆがみがかかっていても危険です。攻撃されるかもしれない状況で相手の曖昧表情を常に「幸せ顔」と捉えてしまうと,自然界では生きていけないかもしれません。曖昧表情をどう読み解くかというのは,進化心理学など様々な観点から考察ができる興味深いテーマです。


【引用文献】

Penton-Voak, I. S., Thomas, J., Gage, S. H., McMurran, M., McDonald, S., & Munafo, M. R. (2013) Increasing recognition of happiness in ambiguous facial expressionsreduces anger and aggressive behavior. Psychological Science, 24(5), 688-697. DOI: 10.1177/0956797612459657

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