「心の理論」はどう加齢変化するのか?(1)

2016/10/11 21:18 に Megumi Tabuchi が投稿   [ 2016/10/11 21:19 に更新しました ]

 人には,他者が「自分とは違う存在」であり,他者が何を思っているのか,どう行動するのかを推測する心の機能があります。これを「心の理論」と呼びます。「心の理論」については,0歳児~小学校低学年を対象に行われてきた研究がほとんどであり,「どのぐらいの時期に獲得されるのか」,「どうやって獲得されるのか」などが興味関心の中心でした。ではこの「心の理論」,いったん獲得されるといつまで持続されるものなのでしょうか?その後の加齢変化はどうなっていくのでしょうか?「心の理論」の加齢変化について,考えてみたいと思います。

まず,「心の理論」は何の発達によって獲得されるのでしょう。「心の理論」が獲得されるのは幼児期~児童期の4歳ごろという知見が一般的ですが,0~2歳の感覚運動期(外的な運動を起こすものに反応する認知機能の発達段階。心の中のイメージというものが存在しないので,例えば「布の下に隠された玩具」は存在しないものと認識する)の最終段階ごろ,つまり2歳児ごろに,その兆し?が見え始めるといわれます。

例えばHepach,R., Vaish, A., & Tomasello, M.(2012)は,2歳児を対象に実験を行い,「困っている様子を見せる他者により注目する」という行動がすでにこの段階で認められることを報告しています。彼らは36名の2歳児を,「困っている人を自分が助けることができる群」,「助けられない群」,「困っている人を誰かが助ける群」の3群に分け,その時の瞳孔の拡大を測定しました。スクリーンに,「積み木を作っている大人の人が,最後の積み木を取ろうとして一生懸命手を伸ばしているシーン」を見せ,「自分が助けられる群」では自由に積み木をスクリーンに持っていける状況,「助けられない群」では,自由に動くことのできない状況,「誰かが助ける群」では実験者が最終的に積み木を持ってくるシーンを見せる状況を設定しました。その結果,「助けられない群」が他の群よりも瞳孔拡大が大きいという結果となりました。つまり,2歳児の段階で,「他者が困っている」「他者が積み木を取ろうとしている」ということが分かっている,「心の理論」獲得の兆しが見えている,と考えられるといいます。

このように,認知機能の発達に伴って次第に「心の理論」が獲得されると考えられるため,高齢期では認知機能の低下に伴い「心の理論」が失われていく,と考えられるのでしょうか。ここで,興味深い文献があります。Bottirolia, Cavallini, Ceccato, Vecchi, & Lecce (2016) は,認知機能と認知的な「心の理論」の側面(例えば,「他者が積み木を取ろうとしている」)は有意に関連していたが,感情的な「心の理論」の側面(例えば,「他者が困っている」)は認知機能の低下に関連していなかったことを報告しています。これは,例えば認知症高齢者では認知的な側面は低下するが,感情的な側面の理解は残る(何が原因で怒られているのかは分からないけど,相手が怒っていることは分かる),と言われることとも通じる面白い結果です。←これについて次回もう少し詳しく読みます。

 

(文献)

Hepach, R., Vaish, A., & Tomasello, M. (2012). Young Children Are IntrinsicallyMotivated to See Others Helped. Psychological Science, 23(9), 967972.

Bottirolia, Cavallini, Ceccato, Vecchi, & Lecce (2016) Theory of Mind inaging: Comparing cognitive and affective components in the faux pas test. Archives of Gerontology and Geriatrics 62, 152–162.

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