「心の理論」はどう加齢変化するのか?(2)

2016/10/18 22:41 に Megumi Tabuchi が投稿   [ 2016/10/18 22:45 に更新しました ]
「心の理論はどう加齢変化するのか?」の続きです。

Bottirolia, Cavallini, Ceccato, Vecchi, & Lecce (2016) は,まず,「心の理論」には認知的側面と感情的側面がある,と考えました。認知的側面とは,「事実として自分とは異なる状況が他者にはある,それを認識できる」という側面,感情的側面とは,「自分とは異なる状況の他者は,自分とは異なる感情を抱いている」という側面です。彼らはさらに,この2側面が同等に認知加齢の影響を受けるわけではないのではないかと考え,若年者(19歳から27),前期高齢者(60-70),後期高齢者(71-82)3つの異なる年齢群を対象に調査を行いました。
 認知機能としては,語彙多様性,語彙流暢性,抑制機能,ワーキングメモリを測定しました。また,「心の理論」の獲得状況を調べるために,彼らは7つの「相手をむっとさせる失言ストーリー」を作成し,それぞれのストーリーを読んだあとに4種類の質問を用意しました。ストーリーは例えば以下のようなものです。

AさんはBさんの結婚祝いのために,ガラスのボウルを買ってプレゼントしました。結婚式はとても大きくてたくさんの人からのプレゼントが届けられていました。さて後日,AさんはBさんのお宅にディナーに誘われました。Aさんはそのとき,誤ってそのガラスのボウルを割ってしまいました。「ごめんなさい!」というと,Bさんは「あー,気にしないでわたしさぁ,それ気に入ってなかったのよね。誰かが結婚式でそれくれたやつなんだけどさ」といいました。さて質問です。


・失言に気づくか:このお話の中で誰か言うべきじゃないことを言いましたか?

・他者と自己同一化:誰が言うべきじゃないことを言いましたか?

・誤信念(認知的側面):Bさんは誰がガラスのボウルを買ったか知っていましたか?

・感情的質問(感情的側面):Aさんはこのときどう思いましたか?


 まず,「心の理論」課題の成績を3群で比較したところ,認知的側面の成績のみ年齢群で有意な差があり,若年者が他の2群よりも良い成績でした。「心の理論」課題の成績と認知機能との関連を調べたところ,「心の理論」の認知的側面とワーキングメモリが関連していることが分かりました。さらに,ワーキングメモリの機能の中でも,より多くの新たな情報を更新・保持できる能力(邪魔な情報を排除・抑制できる能力ではなく)が「心の理論」の認知的側面に関連していることが分かりました(high maintenance and low suppression課題の成績が,年齢と「心の理論」認知的側面の成績を媒介している)。

 この研究により,「心の理論」の中でも「事実として状況が分かっているか」ということと「そのときの他者の気持ちを推測できるか」ということは違っており,加齢の影響を受けやすいワーキングメモリと関連が強い認知的側面は低下するが,感情的側面は維持されやすいことが分かりました。「認知的な状況理解はできなくなるが相手の感情は理解できる」というのは,ポジティブな場面では問題ないですが,ネガティブな場面(認知症患者さんとその家族の葛藤など)では深刻な問題となりそうです(でも逆よりはいいのでしょうか…うーん)。


(文献)

Bottirolia, Cavallini, Ceccato, Vecchi, & Lecce (2016) Theory of Mind inaging: Comparing cognitive and affective components in the faux pas test. Archives of Gerontology and Geriatrics 62, 152–162.


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