傷つきやすい?高齢者

2016/12/20 23:25 に Megumi Tabuchi が投稿   [ 2016/12/20 23:30 に更新しました ]

これまでの「心の理論はどう加齢変化するのか」シリーズで分かったことをまとめてみました。

■加齢の影響を受けやすい認知機能(例えばワーキングメモリ)と関連が強い,「心の理論」の認知的側面(事実として,自分とは違う状況が他人にはある,と認識すること)は低下するが,感情的側面(他人は自分とは違う感情を持っている,と認識すること)は,歳をとっても維持されやすい。(※子どもの抑制機能発達の話でも,「認知的な制御(クール)」と「感情的な制御(ホット)」を区別する(Zelazo & Müller ,2002)
■認知機能レベルを統制しても,若者の方が「心の理論」テストの成績がいい。ただし,「高齢者は若者よりテストに『まじめに』答えるためではないか,という問題あり。
■「心の理論」を測定するためのテストを何度も繰り返す(トレーニングする)ことによって,「心の理論」テスト成績があがり,語彙テストや記憶テストの成績もあがる。

特に,「感情的側面は加齢の影響を受けにくい」というのは面白いところです。つまり,ある文脈において「相手が自分に対してどういう感情を抱いているのか」は把握できるが,「なぜ相手が自分に対してそのように振舞うのか」は把握しにくくなる,ということ。今回は「心の理論」の研究ではないのですが,この現象で説明できるのではないか,と思われる研究を紹介します。

Cheng &Gruhn (2015)は,高齢者の方が若者よりも,会話の相手に拒絶されることで傷つきやすく,さらにその傷つきやすさは認知機能レベルが低い人の方がより激しい,ということを報告しています。彼らは,若者83名(18-26歳)と高齢者53名(60-86歳)に,21組(うち,1人は実験協力者)になって,インタビューする側とされる側に分かれ,オンラインチャットをしてもらう実験を行いました。実験対象者は全員インタビューされる側で,インタビューが終わった後に相手から「この人に会いたいか」のフィードバックをもらいます。フィードバックをもらった後の「傷つき具合」を測定したところ,若者では相手から「会いたい」と言われようが「会いたくない」と言われようが関係ないのですが,高齢者では「会いたくない」と言われると「傷つき得点」が上がる,という結果となりました。
さらに,認知機能レベル(処理スピード)別にみると,高齢者で処理スピードの遅い人が,より相手からの拒絶で傷ついているという結果となりました。
これは,「認知的な側面が下がっていっても感情的側面は維持される」という,これまでの考え方にある意味沿った結果であり,そして「むしろ認知的な側面が下がれば下がるほど,感情的側面に敏感になる?」という面白い知見です。この2側面の発達と加齢を同時に考えていく研究,面白そうです。

(文献)

Cheng, Y. & Gruhn, D. (2015) Age Differences in Reactions to Social Rejection: The Role of CognitiveResources and Appraisals. Journals of Gerontology: Psychological Sciences, 70(6), 830–839. doi:10.1093/geronb/gbu054

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