高齢者は若者よりも他人を信頼しやすい?!

2016/04/12 2:54 に Megumi Tabuchi が投稿   [ 2016/04/14 6:26 に更新しました ]
 「オレだよ,オレ!今ちょっと事故っちゃって。●●万ほど振り込んでくれない?」
こういう会話を聞くと,多くの人が電話口で真っ青になるおばあちゃんを想像しながら,「どうしてそんなに簡単に信用してしまうんだろう」と首をひねるのではないでしょうか?

実際,平成27年度高齢社会白書によれば,振り込め詐欺の被害者の8割以上が60歳以上だとか。「高齢者は騙されやすい」とよく言われますが,果たして本当なのか,それはなぜなのか,どうすればいいのか,について,心理学では様々な研究が行われています。ここでは特に,「他人に対する信頼」という面からこれらの問いに切り込んだ論文をご紹介します。

 

まず,「人は高齢になると人を信頼しやすくなるのか」。これについて,世界38カ国57497名の人を対象に調査を行った結果が,Li & Fung(2013)”Age Differences in Trust:An Investigation Across 38 Countries.”という論文にまとめられています。残念ながら日本のデータはないようですが,38カ国すべてにおいて,他人に対する信頼と年齢が正の相関,つまり高齢の人の方が,他人をより信頼している,という結果が出ています。

さらに,「高齢になると他人の顔に対する信頼が増す」という研究もあります。例えばZebrowitz, Franklin Jr, Hillman, & Boc(2013)は,”Older and Younger Adults’ First Impressions FromFaces:Similar in Agreement but Different in Positivity”という論文の中で,高齢者の方が若者よりも,他人の顔を判断するときに,より「信頼できる人だ」「正直な人だ」と判断しやすいことを報告しています。Zebrowitzたちによれば,これは,高齢者の方が若者よりも,他人の顔から得られる情報の「ポジティブな」側面を覚えていて,「ネガティブな」側面をあまり覚えてないため,としています。これは,いわゆる「高齢になればよりポジティブなものに対する記憶が強くなる」という「ポジティビティ効果」で説明できるかもしれません。

これを実験でさらに,「高齢者のほうが何度騙されても,「いい人」そうに見える人をやっぱり信頼してしまう」という実験で示したのが,Suzuki(2016)”PersistentReliance on Facial Appearance Among Older Adults When Judging Someone’s Trustworthiness”という論文です。ここでは,36名の高齢者と36名の若年者に,「この人にお金を預けるかゲーム」を行ってもらっています。ゲームでは,画面に出てくる人の顔を見ながら,「この人に100万円預けてもいいか」を判断していきます。画面に出てくる顔には,「信頼できる顔」と「信頼できない顔」の2種類あります。画面の人は,対象者が「預けるか否か」を判断した後に,「お金を2倍にして返してくれる」という素敵な行動か,「お金を全部騙し取る」というあくどい行動のどちらかをとります。実験対象者の高齢者と若者に,このゲームを4回行ってもらい,「この人はこんな顔してるけどいいやつだ」とか「こいつはこんな顔のくせにひどいことしやがる」などというのを記憶してもらいます。その後,画面に24名の人の顔が現れ,それぞれの人が「いい人」か「悪い人」か「さっき出てこなかった人」かを判断する,いわゆる記憶テストを行ってもらいます。

 

さて,結果はというと,まず顔の信頼性に関わらず,悪い人の顔をおぼえるのが若者よりも苦手,ということが分かりました。さらに,若者と比べて,高齢者では,「信頼できる顔の人はいい人だ」,というバイアスが強い,という結果に。つまり,先ほどのゲームを4回行って,例えば4回ともお金を騙し取られたとしても,「信頼できる」顔の人であれば,最後の記憶テストで「この人いい人」と判断してしまいやすい,ということが分かりました。

 

 

高齢になればなるほど,人はネガティブなものではなくポジティブなものに目を向けようとする,という「ポジティビティ効果」という現象があります。これは,喪失体験が多くなる高齢者の上手な情動調整方法としても注目されています。しかし,そこにつけこまれて詐欺被害が多発しているとすれば悲しい話です。「ストップ詐欺被害!わたしは騙されない」に寄与する研究に今後も注目です。(田渕)

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