説得における多数派・少数派の熟慮論争に決着

2016/10/19 20:32 に Saki Nakamura が投稿   [ 2016/10/19 22:57 に更新しました ]
多数派と少数派
 多数派の影響の方が大きいことを示す知見もあれば,少数派の影響の方が大きいことを示す知見もあります。説得研究の文脈においても,多数派と少数派のいずれの方が態度に影響するかについては,矛盾する結果が生じています。たとえば,Maass and Clark (1983) は,少数派の時の方がメッセージ関連思考が多いことを示しています。一方で,Mackie (1987) の研究では,多数派による反論メッセージを受けたときのほうが,少数派によるものよりも,メッセージに関連する思考が増えたといいます。しかし,これらの研究はいずれも,メッセージ関連思考に注目したもので,説得的メッセージに対する態度について直接的に検討していません。そこで研究1では,多数派と少数派のいずれのほうが態度に影響を及ぼすのかについて,論拠の強弱を操作した実験で検討します。

研究1
 研究1では,多数派と少数派のいずれの方が,説得的メッセージをより精査するのかについて,メッセージの論拠の強弱を操作した実験で検討しました。参加者はオハイオ州立大学の学生57名で,無作為に2(源泉:多数派/少数派)×2(論拠の質:強/弱)の4つの条件のうち1つに割り当てられました。参加者は,オハイオ州の予算危機の対策として,大学のtuition rates (※日本でどういうものに相当するのかがわからなかったです)はそのままにする代わりに,2年間の地域奉仕活動に従事するプログラムに参加するか,これに従事しない場合にはtuition ratesが3倍になるという政策の導入についての記事を読みました。この記事が説得的メッセージで,多数派がこの政策を支持する条件では,オハイオ州に住んでいる人のうち86%が,オハイオ州立大学の学生の78%がその政策を支持しているという情報が含まれていました。少数派が支持する条件では,その値が18%と12%となっていました。論拠の強弱が操作された説得的メッセージは,予備調査をもとに作成されました。具体的には,強論拠メッセージは「良い経験になり,就職にも役に立ち,コミュニティ全体にいいことがある」という内容でした。一方で,弱論拠メッセージは「地域奉仕活動は義務だ」という内容でした。この記事を読んだ後,この政策に対する態度などを測定しました。


その結果,多数派が支持するメッセージの場合は,そのメッセージの論拠の強弱によって,政策に対する態度に差がある傾向がみられました。一方で,少数派が支持するメッセージの場合は,メッセージの論拠の強弱は影響していませんでした。つまり,この結果は,Mackie (1987) を支持するものでした。

実験2
 では,なぜ多数派のメッセージをより精査しようとするのでしょうか。これには2つの可能性があります。1つはこれまでにも言われていた通り,多数派が支持することによってそのメッセージが保証されることや,多数派と同一視する動機づけによって生じるというものです。もう1つは,多数派が予測と一致しない唱導を行うことによって生じるというものです。実は,実験1もこれまでの研究も,提示されるメッセージは参加者自身の態度とは反対方向に唱導するものでした。すなわち,実際は多数派も少数派もメッセージに対する精査が行われているものの,これまでの研究では参加者自身の態度とは反対方向のメッセージが使用されていたため,多数派がそのように唱導することによって不一致状態になり,精査の度合いが高まったということです。
 もし前者が正しければ,説得の唱導方向に関係なく,多数派のメッセージであればメッセージに対する精査の度合いが高くなると考えられます。一方で,後者が正しければ,多数派・少数派から予測される説得の唱導方向との一致・不一致によって精査の度合いが異なると考えられます。
 実験2では,この可能性について検討するため,実験1の手続きに,状態の一致・不一致の操作を加えて検討しました。参加者は大学生184名で,無作為に2(源泉:多数派/少数派)×2(論拠の質:強/弱)×2(状態:バランス(多数派・同一方向,少数派・反対方向)/インバランス(多数派・反対方向,少数派・同一方向))の8つの条件のうち1つに割り当てられました。参加者自身の態度と同一方向に唱導するメッセージは授業料を減額する(学生にとって利益のある話)という内容で,反対方向に唱導するメッセージは地域奉仕活動プログラムに参加しない場合には授業料を増額するというメッセージを読みました。多数派・少数派の操作方法は実験1と同じでした。論拠の強弱が操作されたメッセージは,同一唱導方向のみ実験1と同じ要領で新たに作成されました。具体的には,強論拠メッセージは,学位取得を目指す人を受け入れるためであることや,質の良い教育を提供するものだという内容が含まれており,弱論拠メッセージでは休みが減っている現状から勉強と余暇の両方を充実させるものだというような内容が含まれていました。

※自分が受けたメッセージを支持するのであれば得点が高くなる。

 その結果がFigure 1です。上のパネルから,不一致状態の場合では,論拠の強弱によって態度に差があることがわかります。一方で一致状態の場合では,論拠の強弱によって差はほとんどありません。また下のパネルでは,不一致状態では多数派・少数派によって態度に差がほとんどありませんが,一致状態では多数派のほうが少数派の場合よりも好ましい態度を表明していました。つまり,不一致状態では,メッセージの論拠の質に基づいて態度が形成され,一致状態ではメッセージの論拠の質ではなく,多数派・少数派であることが手がかりとなって態度が形成されています。

多数が支持するメッセージが一致しているときには「それでOK」であると判断され,そのままメッセージを受け入れてしまいますが,一致しないメッセージである場合には「なんで自分と違うことを言うのだろうか」とメッセージを精査しようとします。一方で,少数の人が自分と一致しないことをいう場合には「そういう人もいるよね」と周辺的に処理されてしまうが,少数の人から自分と一致する方向のメッセージを受ける場合には「なぜだろう」とメッセージを精査するのかもしれません。
(中村早希)

【引用文献】
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