自己妥当性仮説 ①  説得において「信頼できる」ということが逆効果の場合もある

2016/10/12 20:13 に Saki Nakamura が投稿   [ 2016/10/12 23:49 に更新しました ]
これまでPetty & Cacioppo の特集をしてきましたが,そこで紹介された精査可能性モデル(ELM)を発展させた理論の1つに「自己妥当性仮説」があります。今回は, 2006年にJournal of Experimental Social Psychologyに掲載され,自己妥当性仮説について検証したTormala, Briñol, & Petty (2006) を紹介します。この論文では,特に説得的メッセージに対する思考がネガティブである場合に,信頼できる源泉の方がそうでない場合よりも説得の効果が小さくなってしまうことを示しています。

信頼できる情報のほうが説得の効果が大きい
説得研究の歴史の中で,メッセージの信憑性(たとえば,専門家や信用できる人物からのメッセージ)に関する知見は豊富にあります。Hovland & Weiss (1951) をはじめとし,精査可能性モデル(ELM)やヒューリスティックシステマティックモデル(HSM)でも,一貫して信頼できる情報のほうが説得の効果が大きいことが言われています。

自己妥当性仮説
自己妥当性仮説 (Petty, Briñol, & Tormala, 2002) は,説得の2過程モデルで重視されてきた,問題関連思考の「数」と「方向」の2つの側面に加え,その思考に対する「確信度」も態度に関連するというものです。自己妥当性仮説によると,その思考に対する確信度が大きいほど態度への影響は大きいといいます。つまり,この思考が好ましいものである場合には,確信度が大きいと説得の効果が大くなります。

源泉の信憑性が高いほうが確信度も大きい
信頼できる情報の場合のほうが,思考に対する確信度が高いことが言われています。というのも,源泉の信憑性が,メッセージ中の情報の妥当性に影響するからです。さらに,Briñol, Petty, & Tormala (2004) では,源泉が確信度に及ぼす効果は,精査可能性が高く,メッセージに対する思考がたくさんあるときにのみに限定されているといわれてます。

目的
これまでの話をまとめると,自己妥当性仮説に基づいて源泉の信憑性に関して説明すると,信憑性が高いほど確信度が大きく,説得の効果があると考えられます。しかし,源泉の信憑性の高い場合のほうが,説得の効果が小さくなる場合があるかもしれません。もし説得の受け手の思考がネガティブな場合,確信度が大きいときのほうが小さいときよりも説得の効果が小さくなるかもしれません。ただし,この予測についてはまだ検討がなされていません。そこで,この研究は,自己妥当化仮説の枠組みに沿って,説得のメッセージの論拠の強弱と信憑性の高低を操作し,説得における信憑性の効果を検討する実験を行いました。説得メッセージに対して好ましい場合(論拠が強い条件)には,源泉の信憑性の高いほど説得の効果が大きい一方で,参加者が好ましくない思考を生じさせた場合(論拠が弱い場合)には,この効果が反対になると予測しました。

実験1
大学生69名は,無作為に2 ( 源泉の信憑性:高/低 ) × 2 ( 論拠の質:強/弱 ) の4つの条件のうち1つに割り当てられました。そして参加者は,アスピリンの新薬の1つとして現在開発中の“Comfrin(架空のもの)”についての説得メッセージを読み,その後,参加者自身の考えを書きださせ,続いて,従属変数となる質問に答えました。源泉の信憑性は,高い条件ではパンフレットの出典が医療関連製品のもので,弱い条件では地元の高校一年生のクラス会の報告書というように操作れました。論拠の質は,その新薬の副作用の有無で操作されました(強:副作用なし,弱:副作用あり)。

従属変数として,以下の5つを測定しました。
①Comfrinへの態度(とても否定的-とても肯定的,強く反対‐強く同意(9件法))
②思考の確信度(9件法)
③知覚された専門性(9件法):源泉が専門家からのものであると思うかどうか【操作チェック項目】
④自己報告式の精査度合い(9件法):どの程度メッセージに対して深く考えたか
⑤思考の好ましさ:説得メッセージ,あるいは「Confrin」に対する考えをリストアップさせ,それぞれの思考に対して,否定的,中立的,肯定的であるか分類し,肯定的―否定的の数を算出しました。

その結果,論拠が強い時のほう好ましい思考が多くなっていました。また源泉の信憑性が高い時のほうが,思考の確信度が高くなっていました。さらに,態度については,論拠が強い時には,信憑性が高い方が低いと時よりも態度が肯定的になり,論拠が弱い時には,信憑性が低い方が高い時よりも好ましくなっていました (Figure 1)。
これらの結果は源泉の信憑性が確信度に影響を与え,さらに源泉の信憑性が説得的メッセージによって引き起こされた思考が好ましいか否かによって,説得の効果の大小に影響することが示されました。


実験2
大学生106名は,無作為に2 ( 源泉の信憑性:高/低 ) × 2 ( 論拠の質:強/弱 ) の4つの条件のうち1つに割り当てられました。説得の話題をリン酸塩洗濯用洗剤に変更し,それに伴い信憑性の操作を,消費者団体(信憑性が高い条件)かメーカー(信憑性の低い条件)のパンフレットというように変更しました。それ以外の基本的な手続きは実験1と同じです。従属変数の測定については,態度はリン酸塩系洗剤の好ましさのみをたずねました。操作チェック項目については,知覚された専門性ではなく,知覚された信憑性に変更しました。思考の確信度は,メッセージを読んでいる間に浮かんだ考えに対する確信度としました。思考の好ましさは,その思考がメッセージに対するものか,リン酸塩洗剤のものかも割り振ることを追加しました。

その結果,実験1と同様の結果が得られました。つまり,論拠が強い時のほう好ましい思考が多くなっていました。また源泉の信憑性が高い時のほうが,思考の確信度が高くなっていました。さらに,態度については,論拠が強い時には,信憑性が高い方が低いと時よりも態度が肯定的になり,論拠が弱い時には,信憑性が低い方が高い時よりも好ましくなっていました (Figure 2)。



本研究の結果は自己妥当性仮説と一貫するものでした。特に面白い点としては,メッセージの質が弱い時には,信憑性が高いほうが低い場合よりも説得の効果が小さくなる点です。この発見は,論拠の数が多いほうが説得力が小さくなる(Tolmala, Petty, & Briñol., 2002) といった知見のように,説得における妥当性に関する逆説的な効果への説明を可能にしました。

【引用文献】
Comments