選択と説得の効果を加味したカスケード現象のシミュレーション

2017/10/18 1:46 に Saki Nakamura が投稿   [ 2017/10/22 23:58 に更新しました ]
Huang, W. M., Zhang, L. J., Xu, X. J., & Fu, X. (2016). Contagion on complex networks with persuasion. Scientific reports, 6, 23766. 

たとえば,政治への不満の爆発のように,状況によっては,多数派とは反対意見を持つごく少数の個人の存在が,大きなカスケードを引き起こすことがある。ネットワークにおけるシミュレーション研究において,カスケード現象は「伝播モデル」によって検討されており,その中でも「閾値モデル」というのが良く用いられている。「閾値モデル」は,自分とつながりのある他者全体の中で,活性化した他者の割合が,ある一定の値(閾値)を超えることで,自分も活性化するというものである。
実際の社会的影響過程には,他者から影響を受けるだけでなく,それによってまた別の他者を説得しようとする動きもある。そこで本研究では,これまでの研究で他者から影響を受けることだけを想定していたモデルに,活性化した個体が他者を説得させるだけの影響力を持ちうる存在になることを加味して,ネットワークシミュレーションを行った。この新しいモデルを「(Φ,Φ’)の閾値モデル」と著者らは名付けた。

まずは「(Φ,Φ’)の閾値モデル」におけるカスケード現象を説明する。

上の図の例では,選択の閾値(φ)=0.3,説得の閾値(φ’)=0.4とする。また,閾値モデルの大前提として,一度,活性化したものは持続するというのがあることを覚えていて欲しい。
まず,(a)は初期状態を示し,この時は,iの隣だけが活性化していることがわかる。次に,(b)は選択の閾値(φ)のみが採用された状態のネットワークである。例えば,i は3つのノードとつながっており,うち1つが活性化している。つまり,iにとっての周囲の活性化状態は1/3(=0.3333…)となり,選択の閾値(φ)=0.3よりも大きいので,iは活性化する。続いて,同様にjも活性化する。しかし,k(1/5=0.20)やl(1/4=0.25)は,φ=0.3よりも小さいので,ここでは活性化しない。そこに,説得の閾値(φ’)まで加味すると,(c)のようにネットワーク全体が活性化する。これは,bの状態においてiの周辺の活性化度合いが2/3(=0.6666…)となり,jは1/2(=0.5)なるため,説得の閾値(φ’=0.4)を超える。したがって,iとjの隣にあるkやlを説得によって活性化させることができる。これによって,kやlの隣のノードが選択の閾値を上回り,すべてのノードが活性化することになる。このようにネットワーク全体が活性化した状態をグローバルカスケードとという。

さて,説得の閾値を加味することによって,何が違うのか?――それは,説得の閾値が存在することによって,グローバルカスケードが生じやすくなることである。

たとえば,Figure 2では,黒線が従来の選択の閾値のみを採用した際のシミュレーション結果であるが,説得の閾値を採用したシミュレーション結果(赤線や青線)の方が,より小さい初期値(初期状態における活性化したノードの割合)で,ネットワーク全体が活性化していることが示されている(活性化していないノードの割合が早く0になっている)。また,ネットワークの構造別に比較すると,スケールフリーネットワーク(ノードの手の数がべき分布に従うネットワークで,実社会の対人ネットワークに最も近い)では,説得の閾値が高い時には,それが存在することによる影響が小さい。しかし,その閾値が低くなると,ERネットワーク(ノードの手の数が正規分布に従うネットワーク)と同じくらい,むしろ,ノードから出ている手の数が多い場合には,グローバルカスケードがより生じやすいことを示した。さらに,ノードごとに閾値がばらつく場合には,選択の閾値がばらついている方が,説得の閾値がばらついている場合よりも,グローバルカスケードが生じやすくなっているという結果が得られた。

本研究のシミュレーション結果は,社会的ネットワークにおける伝播のプロセスの理解に重要な示唆を与えるものである。

コメント:なれない分野の論文でしたが,心理学で明らかになっている説得プロセスをネットワークシミュレーションに組み込むことで,マクロな説得の影響過程が見れたら面白そう。

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