混み合ったところではむしろスローに生きたくなる

2017/05/04 15:41 に Asako Miura が投稿   [ 2017/05/04 15:46 に更新しました ]
Sng, O., Neuberg, S. L., Varnum, M. E., & Kenrick, D. T. (2017). The Crowded Life Is a Slow Life: Population Density and Life History Strategy. Journal of Personality and Social Psychology112(5), 736-754. doi: 10.1037/pspi0000086

世界の人口はこの半世紀で2倍になった.それにもかかわらず,人口密度の心理的効果に関する研究は,いったんは人気を博したがここ数十年減少の一途にある.この「古い話題」に新しい視点を適用すべく,人口密度の効果の検証のために「ライフヒストリー理論」を用いることにした.ライフヒストリー理論とは,これまでは主に進化生物学や動物行動学の分野で用いられてきた,生きていく上でどのような活動や対象に重点的に投資をするかに注目した理論で,これを人間行動に適用する.

まずセンサスデータによる検討を行った.国際比較(Study1)とUS州間比較(Study2)によって,人口密度が高いとよりスローなライフヒストリー戦略に関連する行動(高い未来志向,教育への高投資,長期配偶志向,遅い結婚,低繁殖力,親の高投資)が表出しやすいことを見出した(人口密度やライフスタイルがある程度統制された環境だと言えるUS州間比較の方でよりはっきりとした正の相関関係が見出されていることが分かる).

次に「密度感」を実験的に操作する研究を4つ実施した.まずStudy 3と4では,「家族で公園に遊びに行ったら駐車場から広場からめっさ人混みで足の踏み場もないほどで遊ぶどころではなくげんなりした」というヴィネットを読ませることで高密度の知覚を実験的に操作した場合(統制群は何も読ませない)に未来志向性が増す(今にあくせくしないという意味でスローライフな戦略)ことをばっちり見出した.Study 5と6では,高密度の知覚を実験的に操作することがライフステージ特有のスローな戦略を導くことを示すために,Study 5では大学生,Study 6ではMTurkerを対象にして同様のヴィネット実験をした.ただしこちらは統制群にもヴィネットを読ませており,その内容は「家族で公園に遊びに行ったら駐車場から広場からめっさリスがたくさんいて足の踏み場もないほどで遊ぶどころではなくげんなりした」というものであった.リスなんだから人の密度感はないはず.こちらのデータでは若干高密度知覚の効果は弱化しており,大学生では投資対象とする関係パートナーの数を減らそうとすること,より高年齢のMTurkサンプルでは子どもへの投資の減少については「よりスロー」が示された,他の2つのDVについては差がなかった.人だろうがリスだろうが「密度感」が多少は影響するかもしれない.

この研究は密度の効果について新しい側面に光を当てるもので,大きな意味で人間文化の変化や社会についての含意を示すものであった.
Comments