“理想的な社会(ユートピア)”を思い描くと社会に対する動機づけが高まる?

2018/03/14 8:10 に Risako Shirai が投稿

Fernando, J. W., Burden, N., Ferguson, A., O’Brien, L. V., Judge, M., & Kashima, Y. (2018). Functions of Utopia: How Utopian Thinking Motivates Societal Engagement. Personality and Social Psychology Bulletin, 0146167217748604. https://doi.org/10.1177/0146167217748604


背景と目的 1516年,Thomas More は想像の世界である理想郷(ユートピア)を物語の中で描いた。理想的な社会をイメージすることは,芸術や文学,政治,社会運動など,様々な活動の背景に根づいているが,社会心理学の分野でいまだユートピアに焦点を当てた研究は存在しない。本研究は,このユートピアに関する想像が私たちの日常生活にどのような影響を与えるのかを調査した。少なくとも,ユートピアの社会に対する機能として以下3つが挙げられる。

変化(change):社会の変化を求める動機づけを高める

批判的感情(criticism現状とユートピアとの比較により現状をネガティブに評価する

補償(compensation現実逃避をする


研究1 ユートピアの機能が私たちの心的機能・社会変化のための活動・現在の満足度といった変数にどのような影響を与えるのかを検討した。研究1ではユーピアに対してポジティブな思考をもつほど現状の社会のシステムが正当でないと感じ,また,現実逃避の傾向が高いこともわかった。

研究 2 研究1ではユーピアに関する考えが社会変化や批判的な感情,補償といった個人の行動傾向や思考と関連していることが示された。研究2では実験的な操作によって,ユーピアに関する考えが社会に与える影響を調べた。実験では,参加者に自分が望むユートピアについて記述するよう求めた(例:“an ideal or best possible society which is hoped or wished for” )。実験の結果,ユートピアについての想像をしない場合よりも,ユートピアについて想像した場合の方が市民としての権利をより強く感じるようになるが,社会に対する満足度や社会のシステムの正当性は低く感じるようになることがわかった。

研究 3 研究3ではユートピアに関する思考が心的機能に与える影響に思考の順序の重要性を加えて検討した。実験の参加者は5つの条件に分けられ (Table 4参照),実験は被験者間計画で行われた。条件は以下の5条件であった。

理想条件(Utopian imagination 条件):理想的な社会についてのみ記述する

理想-現状条件(Mental contrasting 条件):はじめに理想的な社会について記述し,その後現在の社会について記述する

現状理想条件(Reverse contrasting 条件):はじめに現在の社会について記述し,その後理想的な社会について記述する

現状条件(Current society 条件):現在の社会についてのみ記述する

日常条件(Current life 条件):自分の毎日の生活についてのみ記述する

 結果は以下の通りであった(Table 5参照)。

·         理想条件+理想現状条件の市民権の主張の強さは,現状条件+日常条件の参加者よりも強く,社会に対する満足度やシステムの正当性に関する考えは前者のペアの得点の方が低くなった。

·         さらに,理想条件+理想現状条件の市民権の主張の強さは,現状理想条件の参加者よりも強く,社会に対する満足度やシステムの正当性に関する考えは前者のペアの得点の方が低くなった。

·         また,理想条件と理想現状条件間の市民権の主張の強さ・社会に対する満足度・システムの正当性に関する考えには違いがなかった。

これらの結果は,私たちが理想郷を思い浮かべる際,社会の理想像を思い浮かべてから現状を思い浮かべるという思考の順序が特にユートピアの機能を引き出す可能性を示している。 


まとめ 研究1~3において,理想的な社会(ユートピア)との関わりが社会の変革に対する動機づけを引き出すことを示した。今後,ユートピアに関する思考がどのようにして集団全体の目標に作用しているのかに焦点を当てた研究をおこなう必要がある。
Comments