オキシトシンが嘘を正当化する ―「愛情ホルモン」が競争的状況での同調行為に与える影響―

2017/05/25 3:00 に Sayo Kaneuchi が投稿   [ 2017/05/25 3:04 に更新しました ]

Aydogan, G., Jobst, A., D’Ardenne, K., Muller, N., & Kocher, M. G. (2017). TheDetrimental Effects of Oxytocin-Induced Conformity on Dishonesty in Competition. Psychological Science.



【研究の背景】
例えば、オキシトシンを投与された群はグループ内の他者により同調的になったという研究がある。トロッコ問題で、外集団メンバーよりも内集団メンバーを優先することを示した研究もある。オキシトシンの影響下にあると、外集団よりも内集団と協力しようとする傾向が強くなる。内集団の利益のために嘘をつくことさえある。これらの研究は、オキシトシンが周囲に同調するか否かの調節に関わっていることを示している。
非倫理的な行動は、内在的な動機づけだけでなく、競争によってもたらされることもある(例;贈収賄)。さらには競争が、非倫理的な行為を正当化する理由として使われる。
 これまでの研究で、非倫理的行為が競争下で使われるようになると、内集団同調が生じることが分かっている。つまり、全ての構成員が状況を受け入れ、内集団メンバー全員が非倫理的方法を取ることを期待するようになる。非倫理的行動が、新たな社会規範となるということである。この規範は内集団同調を持続させ、促進する神経生物学的な回路を発達させると考えられる。同調嗜好を外的に操作すれば、競争下で非倫理的行動を選ぶか否かにも変化が生じるはず。


そこで、競争的な状況下における非倫理的行為への同調行動と、グループ内の協力に関わるオキシトシンを結びつける発想を得た。

【仮説と予測】
 仲間が同じ非倫理的行動をしているという信念があれば、オキシトシンは競合的な環境下で非倫理的な行為を増加させる。この信念が非競合的な環境下で存在していなければ、オキシトシンは非倫理的行動に何ら影響を与えない。脳内のオキシトシン分泌量が外因的に変化した場合、広く受け入れられている規範(例;誠実性)を競争的な状況下で破ったり、歪めたりする傾向を調節するのかどうかについて検討した。


【方法】

 120人の参加者を2群にわけ、一方にはスプレーでオキシトシンを吸入させた。もう一方はプラセボ群だった。
 60分後、コイントス課題を行った。これは参加者がコインを投げ、その結果に応じて報酬がもらえるものだった。具体的には、裏が1回出れば1.66€の報酬になった。参加者は一人でコインを投げた。さらに、コイントスの結果は参加者の自己申告だったので、嘘を吐いてもその場では分からなかった。そこで、分析においては、報告された結果と数学的確率を比較することで、誠実性の評定をした。
 参加者は、さらに次のような群に分けられた。

・競争群…参加者の報酬は、自分のコイントスの結果およびランダムに組み合わされたペアの結果で決まった。つまり、相手よりも多くの回数裏を出さなければ、報酬はもらえなかった。
  ・非競争群…他の参加者のコイントスの結果は知らされなかった。

  ・戦略性…自分の結果(何回裏が出るか)を予想させ、予想が当たればボーナス報酬を渡すと教示した。参加者は嘘の報告をすることで結果を『予想通り』のものにコントロールすることができた。
  ・非戦略性…ボーナス報酬は設定しなかった。


 なお、オキシトシン投与直後と、、コイントス課題直後に情動状態を測定した。さらに、他の参加者がコイントスの結果についてどのくらい嘘の報告をしていると思うかを尋ねた。


 

【結果】

 結果、参加者が報告した「裏の数」は統計的数値を大きく外れていた。オキシトシン投与の有無に関らず、参加者は裏が出た回数を多めに報告していた。ただし、プラセボ群は競争的な状況にほとんど影響されなかったが、投与群は影響された。
 すなわち、オキシトシンを摂取すると、競争下で社会規範を破る傾向が強くなった。
 また、オキシトシンを投与されると、ポジティブな自己イメージを保とうとする傾向もなくなることが分かった。このことは、プラセボ群には「中途半端な嘘つき」がいたのに対しオキシトシン投与群にはいなかった、という実験結果によって示されている。
 加えて、他の参加者の行動の予測についてもオキシトシンの効果が見られた。競争的な条件下ではオキシトシンを投与された参加者の方が嘘つきが多いと予想した。
 この結果から、非同調指数を求めた。これは、参加者が実際についた「嘘」の割合から参加者が予測した他の参加者の「嘘」の割合を引いたもので、差が小さいほど他者の行動(正確には、参加者が予想した他者の行動)に同調していたことを示す。これについては、
 戦略的状況下で、オキシトシン投与群の方が非同調指数が低かった。非戦略的状況下では差がなかった。
 さらに、恥という情動は、コイントス課題の前後で特に非競争群において変化が見られた。

【結論】
 オキシトシンを投与されると、内集団メンバーに同調的になり、非倫理的行動への心理コストが低減し、不誠実な行動をとるようになる。




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