第八回ニコニコ学会βデータ研究会 ~人工知能と根性で挑むコンテンツの世界~ コメントへのリプライ

第八回ニコニコ学会βデータ研究会セッション1「データ研究全国大会 supported by 博報堂(座長:toritorix)」で講演した,『日常生活のデータサイエンス:社会心理学の魅力』に対してフロアから多くのコメントをありがとうございました.お答えできそうなものについて,まとめてこちらで(ごく簡潔に,ですが)リプライさせていただきます.

講演概要:

社会心理学のメインテーマは,状況の力を解き明かすことです.つまり,人間の心理や行動は内面的要因によってのみ決まるのではなく,どのような状況に置かれるかがそこに大きく作用すると考え,両者の組み合わせがもたらす影響(交互作用)を,データによって語る学問です.本発表では,いくつかの研究事例から,その魅力を語ります.

講演スライド:

コメントへのリプライ

社会心理学について

最近の技術の進歩のおかげで観測がしやすくなったことはあるか。または、技術進歩で急速に発展した社会心理分析
それはおかげさまでたくさんあります.Twitterの計量分析はその典型ですし,アンケート調査もWebを使って行うことが多くなりました.私が手がけている最近の研究では,GPSアプリで人の空間移動情報を取得して解析するようなこともしています.情報系の方の研究を見ていると「ああ,こういう研究に社会心理学者が関与すればもっと面白くなるのになあ」と思うことがよくあります.

「市場」に関する社会心理学の良いテキストはありますか?
市場に関わる社会心理学といえば,一般には「行動経済学」として知られているプロスペクト理論などが典型的でしょうか.とりあえずDaniel Kahnemanの著書をおすすめしておきます.

人間の倫理、自分自身の痛みの記憶からリアルな抑制力が働く、AIにはそれは無いので差異があるのでは?
もちろん差異はあるでしょう.「リアルな抑制力が働く」はずの人間ですらこうなのだから,それがないAIであれば…という意味でした.

社会心理学会の学会と、どのように雰囲気が違いますか?
いろんな意味で「自由」だなと思いました.あとは,マニア臭が…(笑

社会心理学の先に社会思想があると考えてよいのでしょうか?
社会心理(あえて「学」はつけません)と社会思想の間にも相互作用がありそうですね.

社会とは人以外もあるのか?複数ではなくて1対1でも社会?
今回は説明を端折りましたが,環境(状況)には当然人以外の動物やモノやコトなども含まれます.1対1も当然社会です.

社会心理学をやっていて集めやすいデータと集めにくいデータを教えてほしいです。
典型的に集めにくいデータは,研究対象となる行動を「していない」人のデータでしょうか.

計量的な分析を行うことでどのような応用ができるのでしょうか。
計量的な分析を行わないと応用できない,というものはないと思いますが,人間の行動や心理の一般的傾向について,エビデンスにもとづいた議論ができるのが魅力だと思います.

社会心理的に景気の研究とかやっているのでしょうか?
私自身は手がけたことがありませんが,例えば日本人の国民性調査世界価値観調査など長期にわたって行われている社会調査データで人間の行動や心理に関する長期的な変化を捉え,それと景気に関する諸指標の関連を見る,といった研究は可能ですし面白そうです.国際比較研究では,GDPなど経済指標データと心理変数の関連を見る研究はたくさん行われています.

Milgram ,S. のいわゆる「服従実験(アイヒマン実験)」について

現在ミルグラム実験のような実験を国内で可能でしょうか?
まさにこの実験などをきっかけに,心理学実験に参加することが参加者に心身へのストレス等の多大な不利益を与えることを危惧し,それを抑止するための倫理審査の仕組みが整備されました.そのため,ご紹介したまったくそのままの(つまり「生徒役にきわめて多大な苦痛を与えている」と思わせるようなレベルまでボルト数を上げさせるような)実験を実施することは日本のみならず海外でも(倫理審査の仕組みがあるところなら)不可能だと申し上げてよいでしょう.今世紀に入ってから,オリジナルの状況をマイルドにして倫理審査をクリアした追試論文(Burger, 2009)が公刊され,大きな話題を呼びました.そのくらい,この実験は「追試できない」ものとして知られていたのです.

人の行動は環境によって決まる。行動が環境を変えるとすればループ関係が成り立つのか?
そういうことになります.心理学の中でも(応用)行動分析学(ABA)という分野では,環境を操作することで人間の行動を変化させる試みをします.問題行動の改善などによく用いられます.「使える行動分析学」「行動分析学入門」など,読みやすい新書が出ています.

ちょうどEテレ(?)で服従実験に関するテレビシリーズをやっているところではなかったか?
ざっと検索してみたのですが,見つかりませんでした…もし補足情報があれば是非教えて下さい.

命令に服従しないようにするにはどうしたらよいでしょうか?
会場でも申し上げましたが,ある状況に入り込みすぎて,個人の「自分らしさ」が消失することで,非人間的な行動が生じがちです.そんな環境をなるべく作らないように互いが心がけることで,ひどい命令をする人も,それに盲従する人もいなくなるのではないでしょうか.

Twitterの計量分析について
講演でご紹介した研究はまだ投稿準備中なのでご覧いただくわけにいかないのですが,具体的な方法は既に公刊済の研究(東日本大震災直後1週間のツイートを分析対象としたもの)と同じなので,ご参考になれば幸いです.

三浦麻子・小森政嗣・松村真宏・前田和甫 (2015).  東日本大震災時のネガティブ感情反応表出――大規模データによる検討―― 心理学研究, 86(2), 102-111.
カラー版グラフ(本誌はモノクロでわかりにくいです)はこちらからダウンロードできます

その他
勉強するには何からはじめたら良いですか?
放送大学はいかがですか?社会心理学のテキストはとてもよくできてます.おすすめです.

実験の話がとても興味深かったです。購買行動に関する実験例が何かあれば知りたいです。
ちょっと古いのですが,「消費者心理学の最前線」というシリーズものの解説記事があります.ご参考になるかもしれません.

フォントをひっくり返したmiura asakoという表記はコミュニケーションを暗に拒否しているのかなと思いました。
他者にちょっと「ん?」と思われたい,という意図はあるので,「ん?」の先が「コミュニケーションを拒否しているのかもしれない」だったという貴重なデータをありがとうございました.

先生は普段(日常)でも対人に対して観察がクセになっていますか?ご自身の性格を一言でいって?
クセというか,常にそうしています.シャーロック・ホームズくらいの探偵にはなれるかもしれません.自分の性格を一言で言うと,たいていは単純,たまに複雑です(笑

データサイエンスとはあまり関係ない話だったような…。
そう思われたなら残念です.僭越ながら,データサイエンスを狭く捉えすぎておられるのではないでしょうか…
Comments